EM(有用微生物群)による福島の放射能汚染対策の成果

琉球大学名誉教授・名桜大学国際EM 技術研究普及センター長 比嘉照夫

<梗概>

 EM とは,有用微生物群(Effective Microorganisms)の略称で蘇生作用(シントロピー)の本質とされる抗酸化作用と非イオン化作用,及び有害なエネルギー(電磁波,放射線等)を無害化または有用なエネルギーに転換する機能をもった微生物集団である。EM の主要な構成菌は光合成細菌,乳酸菌,酵母を中心にしており一次産業や環境分野に活用されているばかりでなく,健康分野への活用も広がっている。また,EM の持つ蘇生作用は自然生態系を豊かにし,生物の多様性を守るためにも幅広く活用されている。万能的ともいえるEM であるが本稿では福島における放射能対策の現実を紹介する。

はじめに

 2011 年3 月の東日本大震災に対し,EM(有用微生物群)を活用するボランティアの成果については,拙著『新・地球を救う大変革』(サンマーク出版,2012.7)に述べた通りである。特に福島における居住地域の放射能対策については,根本的な成果が得られ,農水省をはじめ,環境省等々にもその情報は提供されたが,一顧だにされないままである。
 官による情報規制すなわち「科学的に裏付けがあり,学会や国際的に認められたもの以外の情報は現場に混乱を招く」ということから,これから述べる,すべての成果はマスコミに出ることなく,ボランティアによる口コミと,その実績を根気強く広げる活動を続ける以外に選択肢は無いという状況におかれている。
 地元の新聞社等も,この現実を知りながら,意識的に取り上げないため,困っている被災者への広報手段は皆無の状態であった。幸にして,地域の,ふくしまFM が週1 回,約7 分をメドに,EM による放射能汚染対策の事例紹介を有料で協力してくれることになり「うつくしまEM パラダイス」と題して,毎週月曜日(13時48分~13 時55分)に放送することで細々ながら,知る人ぞ知るという状況になりつつある。
 EM による放射能対策については,1995 年からチェルノブイリ原発事故の被災国のベラルーシ国立放射線生物学研究所との共同研究で作物に対する放射性セシウムとストロンチウムの顕著な移行抑制と放射線被曝対策に効果が認められ,2002 年までにEM 発酵飲料(EM・X)による内部被曝対策が実証されたのである。
 その成果は,EM の国際会議やEM フォーラム,EM 医学会議でも公表されたが,日本の原子力関係者は日本の原発は安全なので,このような成果は日本では,不要というようなコメントであった。
 福島の原発事故と同時に,この情報はDND(http://dndi.jp/19-higa/higa_Top.php)を通し発信されたが,対応は皆無であった。人類はいまだかつて,物理的時間や物理的移動以外に放射能汚染対策を実用化した例はなく,単なる情報発信では,誰も信じないということを踏まえ,EM 研究機構の協力を得て,福島における放射能汚染対策の実証試験を行なった。その結果を踏まえ,NPO 地球環境・共生ネットワークのEM 災害復興支援プロジェクトを立ち上げ,福島県はもとより,放射能汚染ホットスポット地帯の自力による放射能汚染対策に取り組んでいる。

Ⅰ:放射能汚染対策を目的とした第1回環境 フォーラム「うつくしまEM パラダイス」

 冒頭にも述べたように強烈な情報規制が功を奏し,案内状を出した10 余社のマスコミは,このフォーラムに一社も取材に来なかったという現実がある。場所は福島県の二本松市文化センターで市長の歓迎のあいさつをいただいた。参加者は900 余名,半数以上は福島の県外の人々であった。
 第1 回のフォーラムに当たり,私は次のようなあいさつを行った(2012.10.9)。
 「2011 年3 月11 日に起きた東日本大震災は原子力発電所の大事故を誘発し,未曾有の国難となってしまいました。N PO 法人地球環境・共生ネットワーク(略U-net)は,災害発生と同時にEM 研究機構,EM生活,公益財団法人自然農法国際研究開発センター,EM 研究所,SPC ジャパン,その他,多数のEMボランティアの協力を得て,EM による被災地の支援プロジェクトを全域的に広げ,緊急時の危機管理に多大な成果を上げ,引き続きEM による環境問題の解決と産業振興への支援と協力を行っています。
 特に,福島県における放射能汚染対策については,絶望的にならないように,あらゆる手を尽くし努力する以外に方法はないと思われています。しかし,EM が作物の放射性物質の吸収を著しく抑制することは1997 年にわかっていますし,また,EM 飲料によって内部被曝問題が完全に解消できることやEM の土壌散布によって年々,15 ~ 35%もの放射線を低減させることも2002 年までに明らかになっています。いずれも,チェルノブイリ原発事故の被災地になったベラルーシ国立放射線生物学研究所とEM研究機構の共同研究によるものです。
 U-net では,それらの情報に基づき,EM 関係者の協力を得て,2011 年3 月18 日には,その情報を公開し,福島県内に放射能汚染対策の支援プロジェクトを次々に立ち上げ,多くのボランティアの協力を得て多大の成果を上げています。そのプロジェクトはEM を大量に培養できるシステムを設置し,賛同する住民へのボランティア支援として行っていますが,福島県以外のホットスポットを含め35 カ所以上に広がっています。
 本フォーラムでは,福島県はもとより,関東及び東北のホットスポット地域で得られたEM 技術による放射能汚染対策の成果とタイ国の大洪水の際に衛生対策に顕著な効果を発揮したEM の活用法,およびベラルーシで得られた最近の知見を発表してもらい,環境問題の本質的な解決につながる情報を共有したいと思います。
 限られた時間のため,発表件数はかなりしぼり込んでしまいましたが,本資料には発表できなかった各地の情報も加えています。EM による放射能汚染対策に関する情報は日進月歩です。U-net では,ふくしまFM による放射能汚染対策の情報を『うつくしまEMパラダイス』という番組(毎週月曜日,13 時48 分~13 時55 分)で公開し,種々のボランティア対応を行っています(詳細はU-net にお問合わせください)。
 今回は福島県における放射能汚染対策の第1 回のフォーラムとなりますが,今後は必要に応じ年に2 回をめどに,もちまわり的なフォーラムも計画しています。最後に,本フォーラム開催にあたって御協力いただいた関係者の皆様に心から感謝申し上げると同時に,福島県が『うつくしまEM パラダイス』になることを期待しています」。

Ⅱ:2012 年の検証結果

 まずは,フォーラムで行ったあいさつのEM 散布による放射性セシウムの著しい減少の根拠は,EM研究機構による試験結果である。

(1)福島県飯舘村におけるEM 技術による放射能低減化試験(経過報告)

 福島第一原子力発電所事故に由来する放射性セシウムによる農地の汚染が福島県を中心に深刻な問題となっている。政府主導による除染が開始されているが,汚染された農地の面積は広大であり,除染が完了したのはまだ一部である。
 特に高濃度に汚染された農地の除染については表土の削り取りが最も有効な手段とされているが,仮置場の確保や除去土の保管方法及び,除去コストが除染を進める上で大きな課題となっている。表土の削り取りを行わずに放射能汚染を軽減する技術が開発され,実用技術として確立することができれば,福島県の農業復興に大きな貢献が可能となる。
 放射能汚染対策に有用微生物群(EM)を用いる試みは,1990 年代後半にチェルノブイリ原発事故で被災したベラルーシ共和国にて行われ,EM を土壌に散布すると土壌中の放射性物質の農作物への移行が抑制されることが報告された。さらに,EM を土壌に散布した農地では放射線線量が減少したという事例も認められた。
 このような過去の経験の下に,2011 年5 月より福島県飯舘村の果樹農家の理解と協力を得て,EM を活用した農地の放射能汚染の低減化を目的とした実証試験を開始した。

試験方法

 約20a のブルーベリー農園内に,EM 活性液を散布する「EM 区」及びEM 散布に有機物施用を組合せた「EM+ 有機物区」を設定し,「EM 区」と「EM+ 有機物区」に隣接する場所に何も散布しない「対照区」を設定し試験を実施した。
 「EM 区」では,光合成細菌(EM3 号)を添加したEM 活性液を週に2 回,10a 当たり100L を散布した。2011 年7 月下旬以降は散布を週に1 回に変更し,2012 年4 月以降は10a 当たりEM 活性液500L を2週間毎に1 回散布した。
 「EM+ 有機物区」ではEM 散布に加えて有機肥料を現在までに4 回,1 回当たり約200kg/10a 施用した。
 試料とする土壌の採取は,文部科学省の環境試料採取法及び農林水産省の通知に従い,処理区毎に事前に設定した5 カ所から深さ15cm までの土壌を採取し,よく混合したものを土壌試料とした。土壌中の放射性セシウム濃度(134Cs ,1 3 7 Cs) は,㈱同位体研究所にてゲルマニウム半導体検出器により測定した。

結果及び考察

 「EM 区」では試験開始直後の土壌の放射性セシウム濃度は1kg 当たり約20,000Bq/kg あったが,2 カ月目の7月には約5,000Bq/kg まで大幅に減少した。すなわち,放射性セシウム濃度はEM 散布開始後2カ月間で約15,000Bq/kg( 約75% ) 低下した(図1)。
 「EM +有機物区」でも「EM 区」と同様に放射性セシウム濃度の減少を認めた。その後,「E M 区」,「E M+有機物区」ともに放射性セシウム濃度は冬に一旦上昇したものの,4 月からは再び減少し約5,000 〜6,000Bq/kg 付近で推移している。
 「EM 区」に隣接した「対照区」においても「EM 区」と同様に放射性セシウム濃度の減少が認められた。この減少は「EM 区」に散布したEM の拡散による影響が原因と推察されることから,「EM 区」に隣接しない県道を挟んだ対面に位置するブルーベリー圃場の土壌を調査したところ,土壌の放射性セシウム濃度は約15,000Bq/kg と依然として高い数値が計測された(調査日:2012 年9 月6 日)。
 2011 年5 月から7 月にかけての放射性セシウムの大幅な減少は降雨により放射性セシウムが土壌深部に浸透・流出したのが原因ではないかと考え,15 〜30cm 深さの土壌を採取し分析したところ,放射性セシウム濃度は300Bq/kg 以下と低く,降雨による土壌深部への浸透・流出は認められなかった(表1)。
 この測定結果は,放射性セシウムは土壌中の粘土粒子等と強く結合し耕起していない圃場の場合には,表面から2.5cm の深さに95%が留まるという農林水産省の報告とも合致していた。しかしながら,自然に土壌中の放射性セシウムが2 カ月間で75%近く減少することは考え難いことから,EM の働きにより土壌中の放射性セシウムが低減したと考えられる。現在は,更なる低減化に向けての技術開発とそのメカニズムの解明に向けて様々な試験を実施している(EM 研究機構)。

(2)EM オーガアグリシステム標準堆肥による放射性物質移行抑制効果を実証

 いまだ風評被害の絶えない福島県。マクタアメニティ株式会社開発のシステム「アグリS C M システム(※)」で使用している堆肥(E M オーガアグリシステム標準堆肥)等を用いて,福島県は「農用地等における『民間等提案型放射性物質除去・低減技術実証試験事業』」を実施。2012 年5 月17 日にその試験結果が発表された。
※ アグリSCM システムとは,日本の農業生産・流通についてのイノベーションを目指し,生産資材・生産方法・品質・流通ルートなどを情報管理できる,経済産業省などの研究助成で構築している運用システムである。

1)福島県による実証試験結果
 放射性セシウムを含む土壌に供試資材を添加し,作物(コマツナ)をプランターで比較栽培することにより,セシウムの移行抑制効果が認められた。
 移行係数で見ると,EM オーガアグリシステム標準堆肥は,無処理区と比べて約1/9,対照資材として使用された塩化カリウムと比べて約1/3 であった(図2)。放射性セシウムの移行結果の他に,コマツナの生育状況も調査された。そこでは,塩化カリ区,無処理区と比べて,EM 堆肥区の方が生育が良かったとの結果も出ている(表2)。

2)EM オーガアグリシステム標準堆肥の有効性
①「アグリSCM システム」及び「EM オーガアグリシステム標準堆肥」は放射性物質移行抑制のためにつくられたシステムや資材ではなく,安心で高品質の生鮮農産物をマーケットに安定して供給しようとするシステムである。
②標準堆肥やぼかし肥料を一定水準で使い,無化学肥料による有機生産技術であるEM オーガアグリシステムは,福島県内で15 年以上の実績がある。生産品目,土壌条件等による生産技術は既
に生産者が導入することが容易。
③放射性物質移行抑制のためのその他資材や土木技術を利用し,追加費用を支払うのではなく,「高品質の農作物生産のための費用」として利用することができる。
④ EM やEM オーガアグリシステム標準堆肥は有機JAS 適合資材である。堆肥原料等を調査し生産・供給システムに従って堆肥化・運搬をすれば,「有機循環」が切断されている地域でも,有機物の循環型農業システムが復活できる。
⑤今回資材として用いたものはEM オーガアグリシステム標準堆肥のみ。しかし,マクタアメニティ(株)が生産指導するコマツナなどの農産物は,新日本スーパーマーケット協会の「バイヤーズ食セレクション」などでも非常に高い商品評価を受けており,有機生産システムとしても有用である。

結論

 EM オーガアグリシステムは,本来,高品質の消費者満足度の高い農産物をつくるためのシステムであり,EM オーガアグリシステム標準堆肥はそのための資材。さらに栽培土壌を豊かにすることに加え,放射性物質移行抑制の効果が出ていて,従来から使用していた良いものを作るための資材コストと考えると放射能対策の追加費用にはならない。資源循環型農業の復活と,安全・安心でおいしい福島県産農作物の復活が可能であると考えられる。また,福島県以外のいわゆるホットスポット地域や,効率的な有機生産と高い品質で農産物の差別化を図ろうとする産地,流通にも有効なシステムであると言える。

(3)安全で高品質な農産物供給に取り組むマクタアメニティ株式会社

 マクタアメニティ株式会社は,安全で高品質な農産物供給のため,1994 年以降有機発酵肥料や高品質なEM 発酵堆肥などを活用した有機循環型の生産システム「EM オーガアグリシステム」を開発し普及・指導している。同システムで生産された農産物の品質評価は高く,これまで首都圏のデパートや高級スーパーなどで取り扱われてきた。震災以後は徹底した放射性物質の検査を行い,栽培土壌の汚染は避けられなかったものの,収穫物は検査機器での検出限界以下となり,放射性物質の土壌から作物への移行抑制に同システムによる管理が効果的だと思える。同社の移行抑制に関する提案は,福島県が公募した「平成23 年度民間等提案型放射性物質除去・低減化実証事業」に採択された。県の放射性セシウム移行低減化試験によって同システム標準堆肥のみの施用区は塩化カリ区より約1/3 以下に移行が抑制され,さらに肥効による増収効果があったことが福島県より発表された(2012 年5 月17 日プレスリリース)。EM 活性液を10a 当たり200 ~ 300L 併用することで表3 に示すように放射性セシウムが全く検出されないことも明らかになった。

(4)内部被曝対策の根拠になったデータ

 図3 のデータはベラルーシ国立放射線生物研究所のコノプリヤ教授(所長)のアドバイスを受け入れ,当時,私の研究室のベラルーシからの留学生のベンスコビッチ氏が行った結果である。
 それらの成果を踏まえEM・X からグレードアップしたEM・X GOLD を飲用した結果が「N PO 法人チェルノブイリへのかけはし」の活動である。

「NPO 法人チェルノブイリへのかけはし」の活動
 「N PO 法人チェルノブイリへのかけはし」(略称:「かけはし」)は,1992 年の発足以来,チェルノブイリ原発事故で被災国となったベラルーシ共和国の子どもたちを日本に招待し,転地療養させることによって健康回復をはかる“保養里親運動”に取り組み,2010 年までにのべ648 名の保養受け入れを行ってきた。また,健康回復に良いとされる食事や療養方法を積極的に調査し,放射能被害への対応策について多くの知見をもっている。これらの経験から,福島第一原発事故以降は放射能汚染を心配する母親たちからの相談が絶えず,野呂代表は全国各地で「お話し会」などの講演活動を精力的に行っている(代表,野呂美香)。
 図4 は,2010 年,保養のため1カ月間,さまざまな国外へ保養に出たベラルーシの子の体内放射能(セシウム137)蓄積量の変化(灰:保養前,黒:保養後)を示す。保養受入国別のグループごとの排出率が記されており,平均32.75%。体内蓄積放射能値が低ければ低いほど,逆に体外へ排出しづらい傾向が指摘されている。「チェルノブイリのかけはし」(日本)で保養した子供たちは,81%という顕著な排出率を示した(日本へ来た子供たちはEM・XGOLD を1日50cc ずつ30 日間飲用)。

(5)EM の機能を持たせた樹脂容器による放射性セシウムの消失

1)ホワイトマックス社の試験結果
 本件は,極めて信頼性の高い研究機関で行ったものであるが,「この現実にコメントが出来ない」という理由から機関名や実験に当たった責任者の公表は不可とのことである。
 注目すべきは検出誤差が1ベクレルというゲルマニウム半導体検出機で計測したもので放射性セシウムが短時間に消失したという確たる裏付けとなるものである。

試験方法
ホワイトマックス社の試験に関する実験責任者からのコメント①
 エンバランス加工AS 樹脂製容器(EM B スライド式タテヨコピッチャー 1.3L)に水および飲料水を2012 年4 月1 日から実施されている新基準値(飲料水:10Bq/kg,牛乳:50Bq/kg)以下の放射性セシウムを含む水および牛乳を室温および冷蔵庫内で保存した場合,水の場合は6 時間後,牛乳の場合は12 時間後には検出限界にまで放射性セシウムレベルが低下したが,市販されているポリプロピレン樹脂製容器では,このような効果を認められなかった。

ホワイトマックスの試験に関するコメント②
・エンバランス加工AS 樹脂製容器を毎日台所用洗剤で洗浄後乾燥してから水および牛乳を室温および冷蔵庫内で保存した場合,7,14,21,28 回洗浄しても効果が変わらなかった。
・エンバランス加工AS 樹脂製容器を毎日台所用洗剤で洗浄することなく水および牛乳を入れ替えて室温および冷蔵庫内で保存した場合,7,14,21,28回繰り返しても効果が変わらなかった。その効果は1 年経過した後も変わっていない。低レベルとは言え放射性セシウムは完全に消えているのである。

2)EM 処理による密閉フレコンバック内でのバークの放射性セシウムの減少効果
 栃木県の株式会社レックEM 益子と有限会社マキ工業が,堆肥原料となる腐葉土にEM 散布をおこなったところ,5 カ月で放射性セシウムが三分の一以下に低減するという結果が得られた。
 現在も継続して経過調査中であり,今後さらに変化があった場合,追って紹介していく予定である。
【実験材料】腐葉土0.5 立米(170kg)
【EM 処理】1回あたり10 ⅬのEM 活性液を希釈せず施用。現在まで合計8 回施用。
【分析結果】以下の通り

①この結果は当初の680 ベクレルが5 カ月後に190ベクレルとなり70%以上の減少率となっている。
②材料は,屋外の堆肥工場にある発酵途中のバーク堆肥(街路樹等の剪定枝・落葉・草刈等)を取り出し試料とした。試料は,フレコンバッグ(耐久性が強く水が通らない大型の袋)に詰め,雨よけの屋根にある場所に設置,外部と完全に遮断されている。
③ EM 散布の度に,試料をフレコンバッグから取り出しビニールシート上で攪拌,その後再度フレコンに詰め直した。発酵状態がよく,かなり高い熱を発していた。
 このデータも前項で述べたエンバランスピッチャー同様に放射性セシウムが消滅するという状況証拠ともいえるものである。

(6)庭園や敷地におけるEM 散布による放射能減少効果

 測定場所:福島県いわき市平成団地の久呉氏宅(毎週1 ㎡当たり,EM 活性液を0.5L 程度散布)放射能は,時間の経過とともに自然に減少するが,この傾向を自然減だとすると,この地域はあと数年で,限りなくゼロに近くなるということになる。放射性セシウム137 の半減期が30 年であることを考えると,この減少は明らかにEM の効果である。福島県以外にも,茨城県や宮城県のホットスポット地帯の校庭に,EM 散布を行った事例も数件あるが,いずれも散布された学校のみ,放射線量は減少しており,その他の学校では,減少が認められず,逆に増えている例もある。
 このような事例を踏まえ2013 年11 月現在,福島県を中心に拠点活動団体やグループは図6 に示すように38 カ所となりその活動は更に枝分かれ的に広がっている。

第2 回環境フォーラム「うつくしまEM パラダイス」

 前年の成果を受け2013 年11 月9 日に福島県教育会館にて第2 回環境フォーラムが開催された。参加者は400 人,半数は福島県外の参加者であった。開催に当たっての私のあいさつ文は以下の通りである。
 「2011 年3 月11 日に起きた東日本大震災によって引き起こされた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって被災した福島県を,EM の活用によって,放射能汚染問題を解決し『うつくしまE M パラダイス』にする目的で開催されるものです。
 昨年の第1回のフォーラムでは,2012 年までに得られた成果をチェルノブイリ原発事故の被災国であるベラルーシ国立放射性生物学研究所の研究成果の発表やベラルーシの子供達の内部被曝対策の成果やEMの多様な活用法について発表してもらいました。
 その内容を総括すると,
①有機物を投与しEM が十分に活動できる条件を整えて,EM の密度を高めるような栽培管理を行った農地では,作物による放射性セシウムの吸収は完全に抑制される。同時に作物の収量や品質が向上した。
② EM を活用した酪農では,畜舎の衛生問題をすべて解決するとともに,その地域の汚染牧草を給与しても,牛乳中の放射性セシウムは5 ベクレル以下となり(国の基準は50 ベクレル),その糞尿(スラリー)を散布した牧草地の放射能レベルが低下し,牧草の放射性セシウムの吸収も抑制されることが認められた。
③ EMの活性液を散布し続けた場合は,例外なく放射能汚染レベルが低下しているが,降雨等で土壌水分の多い条件下で散布すると,より効果的である。
④ EM やEM・X GOLD を活用すると電離放射線の被曝障害を完全に防ぐことが可能であり,内部被曝対策にも万全を期することが可能である。
⑤ EM は,今後問題化すると予想されている放射性ストロンチウムの作物への吸収抑制にも顕著な効果がある。
⑥ EM を散布された周りの数メートルから数十メートルの放射線量も低下する。
 以上の成果を,福島県を中心とする低線量汚染地帯で実施すれば,放射能汚染問題を根本から解決することが可能であるといえます。とはいっても,これまでの放射能に関する常識ではあり得ないことですので,この成果が公的に活用される可能性は限られており,当N PO 法人地球環境・共生ネットワークのボランティア活動である『EM 災害復興支援プロジェクト』に頼っているのが現状です。
 この『EM 災害復興支援プロジェクト』はすでに50 件近くとなり,年々希望者は増え続け,休止する例は殆どなく着実に広がっています。
 第2 回の今回のフォーラムは,昨年の成果を踏まえ,経年的にどのような結果になったのかという放射能汚染の根本を意識し,昨年度に発表いただいた方々の報告を中心に,その後の新知見やベラルーシ国立放射線生物化学研究所のEM やEM・X GOLD による研究成果を報告してもらうことになっています。
 EM のコンセプトは,すべてのものに対し『安全で快適』『低コストで高品質』『善循環的持続可能』となっており,この力は放射能汚染地帯においても無限なる力を発揮してくれます。
 最後に,本フォーラム開催にあたってご協力いただいた関係者の皆様に心から感謝申し上げると同時に,福島県が『うつくしまEM パラダイス』になることを期待しています」。

Ⅲ:2013 年の検証結果

(1)EM 研究機構の2013 結果報告

 福島第1 原子力発電所の事故から2 年8 カ月が経とうとしているが,放射性物質で汚染された農地の除染は,一部の地域が完了したものの,仮置き場の確保の問題から当初の計画より大幅に遅れている。表土を除去せずに放射能を低減する技術が開発,確率されれば福島県の農業復興に大きく寄与できる。
 放射能汚染対策に有用微生物群(EM)を用いる研究は,1990 年代後半にベラルーシ共和国にて実施され,EM 散布により土壌中の放射性物質の農作物への移行が抑制される効果が報告された。また,EM 散布した農地では放射線線量が減少したという事例も認められた。
 このような経験を基に,われわれは2011 年5 月より福島県にて,EM 栽培農家の農作物や土壌中の放射性Cs 濃度の調査,EM による農作物への放射性Cs の移行抑制試験及び汚染農地における放射能汚染の低減化試験を実施している。1 年目の成果については昨年の事例集で報告したが,以下にその後の経過を報告する。

1)農地における放射能汚染低減化試験及び調査
 EM による放射能汚染の低減化を検証するため,飯館村のブルーベリー農園(約20a)にてEM 活性液を定期的に散布し試験を行った。試験開始直後の土壌の放射性Cs 濃度は,土壌1kg 当たり約20,000Bq であったが,2 カ月後には約5,000Bq まで減少し,約75%の低下が認められた。この時,深さ15 ~ 30cm の土壌の放射性Cs 濃度は約250Bq/kg であり,降雨による土壌深部への浸透・流出による低下ではないと考えられた。一方で,本試験ではEM 処理区に隣接した対照区でも放射性Cs 濃度が低下した理由は現在でも検討中である。しかしながら,自然放置して土壌中の放射性Cs が短期間で75%も減少する事象はこれまで報告されてないこと,15 年以上にわたりEM やEM 発酵堆肥を活用し土づくりを行ってきた農家(果樹園,畑作,水田)の土壌の放射性Cs 濃度の推移の調査結果(図7)でも,理論上の減衰値よりも放射性Cs が低下していることから,われわれは土壌中の有用微生物の活性が放射性Cs の低減になんらかの影響を及ぼしていると考えている。
 飯館村の試験圃場では2012 年も春から秋まで試験を継続したが,放射性Cs 濃度の増減はあったものの5,000-8,000Bq/kg 付近で推移した。2013 年は,飯館村で政府による本格的な除染が開始されたことから,同試験圃場におけるEM 活性液の散布と測定を休止している。

2)EM 施用による放射性物質の移行抑制試験
 2011 年に福島県農林水産部が実施した実証試験事業において,EM オーガアグリシステム標準堆肥施用区は,無処理区,対照区(塩化カリウム)と比較して放射性Cs のコマツナへの移行が有意に抑制されたことが報告された。同報告書では移行抑制の機序として,堆肥による土壌中の交換性カリウム含量の増加が原因ではないかと考察されていた。われわれは堆肥由来の交換性カリウムの効果とは別に,微生物の働きも放射性Cs の移行抑制に影響を及ぼしていると考え,プランターに汚染土(134Cs+137Cs:12,000Bq/kg)を入れ,堆肥を用いずコマツナを栽培し,EM 施用が放射性Cs の農作物への移行抑制に及ぼす効果を検証した(図8)。EM 区はEM 活性液1%希釈液を,対照区は水を適時灌水した。コマツナから検出された放射性Cs は,対照区が37.0Bq/kgに対しEM 区は14.5Bq/kg で,放射性Cs の移行が有意に抑制された。移行係数で比較しても対照区の0.00313 に対し,EM 区は0.00118 で,放射性Cs の移行が62%抑制された(図9)。材料として用いたEM のカリウム含量は0.1 ~ 0.2%とわずかであることから,EM による放射性Cs 移行抑制機序はEM 中の水溶性カリウムの効果ではなく,別の機序が存在することが示された。
 ベラルーシ国立放射線生物学研究所との共同研究では,EM ボカシの施用により,水溶態Cs,イオン交換態Cs などの根から吸収容易なCs の割合が減少し,有機物結合態Cs,粘土鉱物結合態Cs 等の根から吸収困難なCs の割合が増加することを認めた。従って,EM による土壌改良は,根から吸収容易な放射性Cs の割合を減少させる作用があり,その結果,農作物に移行する放射性Cs が減少したといえる。

(2)原乳の放射能対策とEM 処理スラリーによる放射性セシウムの減少効果
  -南相馬市 滝澤牧場の事例-

 2012 年の春季に現地でとれた62 ~ 65 ベクレル/kg の牧草にEM 活性液を添加し飼育した原乳の放射性セシウムの結果は下記の表の通りである。バルク乳区は汚染牧草の使用を極力ひかえ放射性セシウムを5 ベクレル以下にするために行われた飼料設計によるものである。
 EM 資材の添加により,汚染された牧草を給餌した牛の減乳中の放射性セシウム濃度が給与8 週後から著しく減少した。
 この結果を受けて瀧澤牧場では,すべて自前の栽培牧草に変え大幅なコストの低減を図っているが,更なる改善傾向が認められていると同時に,その糞尿(スラリー)にE M を加え臭気を消した後に牧草地に散布した結果,下記のような成果が得られている。

【結果のまとめ】

①飼料へのEM 活用により,牛舎だけでなく堆肥やスラリーの悪臭が大幅に軽減され,牧草地へ還元する際に表層への散布も可能になった。

② EM 処理された有機物の施用により,土壌中の放射性セシウム濃度が低減する傾向が認められた。
③ EM 処理された有機物の施用により,放射性セシウムの土壌から牧草への移行が抑制される傾向が認められた。
 それらの成果は近隣の畜産農家にも広がっており,畜産を軸にした有機農業の振興に根本的な放射能対策の決め手となるものである。なお,EM は15 年以上も前から畜産用のA 飼料として国の認可を受けており,飼料の効率化,畜産の健康や衛生問題に関するすべての分野で幅広く活用されている。

(3)EM 散布が放射性ストロンチウム(90Sr)の農作物への移行に及ぼす影響
  -ベラルーシ国立放射線生物学研究所-

 ベラルーシ共和国では農作物への移行率が高く,現在でも問題となっている放射性ストロンチウム(90Sr)に注目し,核種分析対象に加えた。
 国立放射線生態学保護区内の試験圃場で,レタス,ニンジン,タマネギを化学肥料を用い栽培し,対照区は水を,EM 区はEM 活性液を水で500 倍に希釈した。収穫した農作物試料の137Cs 及び90Sr の測定はベラルーシの放射能測定法に準拠し行った。
 90Sr による土壌の汚染度は137Cs の約5 分の1にもかかわらず,移行率は137Cs に比べ高かった。90Sr の移行はEM 区で有意に抑制された。これはEM の散布量による土壌微生物の活性化,腐植の増加が,90Sr の非水溶化を促進したと考えられる。
 放射性ストロンチウムは,体内に吸収されると,骨の組織に移行固定されるため,放射性セシウムのように時間の経過とともに体外に排出されることなく,時間とともに累積する性質を持っている。そのため,内部被曝は,増大し,骨に関する様々な病気や障害を引き起こす厄介な存在である。上記の結果は,EM の施用によって放射性ストロンチウムの吸収が著しく抑制されているが,類似の結果は,すでに1997 年にも得られており,EM は放射性ストロンチウムの吸収抑制に対し,極めて有効な手法であるといえる。
 本結果で注目すべきは,EM は潅水時に活性液を500 倍にして施用したのみである。EM 活性液は一般的にはEM 原液を20 ~ 100 倍に拡大培養したものであるが,専用の培養器を使うと1,000 倍~ 10,000 倍以上に増やすことが可能であり,コストは他の土壌改良資材にくらべると有って無きがごとしものである。

(4)作物に対する放射性セシウム吸収抑制効果

 本件については結論的な結果が得られている。マクタアメニティーグループでは,1件の例外もなく,また,柴田農園以下,EM 栽培を本格的に行っている農園は,すべて検出限界以下(1ベクレル以下)となっている。注目すべきはEM 活性液を使用し,検出限界以下になった水田や畑地は,多収高品質となっているばかりでなく10a 当たり200 ~ 300 L の活性液の使用でも,再汚染の懸念が全くないということである。

(5)内部被曝対策と敷地内の放射線量の低減

 本件についても結論的な結果となり,広く一般に知らせ,EM の活用をより積極的に行うべきであるというコメントとなった。
 図11 は栃木県,那須塩原のホットスポット地帯でEM を散布している柴田氏宅の放射量の経時的変化である。
 昨年一部報告をしてもらった久呉氏宅の放射線量の変化は図12,13 の通りで著しい減少効果が認められている。
 その他2.3Sv/h(3 月)→ 1.2Sv/h(7 月)の高線量区域での成果も得られたため,新たに3 グループの取り組みが始まっている。

おわりに

 EM が世に出て32 年目となった。その安全性や蘇生的な作用(シントロピー現象)は,使ってみれば素人にもわかることで,特に放射能の場合はすぐに消えることがないため測定すれば,明確にジャッジできるものである。EM は,基本的な手順を守れば,素人でも大量に増やすことが出来るが気温の高い時期に限られている。
 そのため,本格的な培養はヒーター付きで,それなりの機器が必要であり,フルセットで100 万円程度かかるものであるが,ハウスとタンクを上手に組み合わせると1カ所で年間数千トンの活性液を作ることも可能である。現在,福島県には,そのようなシステムが30 カ所以上も出来ており,上手に活用すると福島県全体にいきわたらせることも可能である。
 本EM 災害復興支援プロジェクト予算のすべては,海外を含め,EM 関係者の寄付によるものであり,すべてボランティアと自己責任原則で行っている。26 年を経過したチェルノブイリの現実を考えると,気の遠くなるような現実に直面するが,EM を使っている人々は勇気百倍である。なぜならば,放射能の根本的な対策が,生産,環境,健康,等々のすべての分野で従来の常識をこえるハイレベルの解決が可能であり「うつくしまEM パラダイス」を夢見るようになってきたからである。
 EM は,今では世界51 カ国に工場があり,150 余の国で使われておりタイやベトナム,カンボジアなど国策として取り上げている国々も多く,世界で最も多く,多分野(水産を含むすべての一次産業と環境全般,土木建築,健康等々)で使われている微生物資材である。
 今や日本(沖縄)発,世界のグローバルスタンダードとなったEM であるが,更に踏み込んで,生活や生産のあらゆる場でEM を空気や水の如く使うことで,大気汚染,水質や土壌汚染対策,放射能汚染等々のすべての汚染問題を解決し生態系を豊かにし,生物多様性を守るだけでなく,健康問題の本質的な解決策に直結する力ももっている。福島でのEMのボランティア活動は,この信念に支えられており,人類の未来を開くモデルともなり得るものである。
(2013 年12 月26 日)

■プロフィール ひが・てるお
1941 年沖縄県生まれ。琉球大学農学部農学科卒。九州大学大学院農学研究科博士課程修了。その後,琉球大学助教授などを経て,82 年同大学教授,2007年同大学名誉教授,同年4 月名桜大学教授及び国際EM 技術研究所所長に就任。またアジア・太平洋自然農業ネットワーク会長,有用微生物応用研究会会長,NPO 地球環境・共生ネットワーク理事長などの中,国・県の各種委員を多数歴任。「EM」を研究開発し,EM は農業・畜産・環境・建設・工業利用・健康・医学などの幅広い分野で活用,現在世界150ヵ国余に普及されている。主な著書に,『EM 産業革命』『微生物の農業利用と環境保全』『- 新世紀- EM 環境革命』『シントロピーの法則』『新・地球を救う大変革』他多数。