東アジア情勢と日本の安全保障政策

オーストリア共和国元国防大臣/ オーストリア欧州安全保障政策研究所長 ヴェルナー・ファスラベント

<梗概>

 2013 年5 月31日,UPF の招きで来日されたW.ファスラベント元オーストリア国防大臣を迎えて, アジア太平洋地域の安全保障問題に関する「特別懇談会」が都内で開かれた(共催:UPF-JAPA N/ 平和大使協議会/ 平和政策研究所)。同氏は,世界の構造変化,とくに中国の台頭という問題を 取り上げ,ヨーロッパの視点に立ってアジア太平洋地域におけるグローバルな観点から提言,日本 が今後,アジア諸国との連携を強化することと,その主軸となるべき日韓の連携強化を強く訴えた。 以下,その要旨を紹介する。

 世界の平和問題について考えるときに重要な ことは,本当の問題は何なのか,率直かつ真 摯に見つけ出し偏見なく解決策を考えることで ある。ここでは地球規模および太平洋地域の 安全保障問題について考えてみたい。

世界の緊張地域

 グローバルなレベルでみたときに,とくに緊 張が高まっている地域が三箇所ある。即ち, ①バルカン半島からコーカサス地方を経て中央 アジアに至る地域。
②アラブ・イスラーム世界。「アラブの春」の影 響の及んだ地域。
③将来大きな危機になる可能性をもつ地域とし て,北アフリカからサハラ以南アフリカとを分け る線内である。ここには多くの国が含まれるが, それらは相互関連を持つ緊張が継続している。 ソマリア,スーダン,ナイジェリア,中央アフリ カ,チャド,マリから大西洋に向った流れである。 これらは将来に向けて重大な問題となりうる地 域だ。
 そのほかに,海洋における問題として,まず ソマリア近海の海賊問題がある。そしてアデン 湾・ホルムズ海峡・マラッカ海峡などのシーレ ーン問題。これらの海峡は世界貿易の約80% を占めており,シーレーンと関連して安全保障 上の深刻な問題である。ペルシャ湾からホル ムズ海峡を越え,さらにはマラッカ海峡に至 るルートは東アジア諸国にとって重要な箇所で ある。これらは欧州貿易の観点からもいえるこ とだ。
 さらに核拡散と関連して,北朝鮮・イランが ある。両国とも核保有国になる可能性を持つ。 今年後半にイラン問題は重要な局面を迎えるこ とになるに違いない。私はイランと永年にわた るかかわりから,さまざまなチャンネルを持っ ているが,イラン問題解決に対して私自身は楽 観視している。メディアで報じられているほど 深刻だとは認識していない。
 パキスタンについて世界は,その実情を十分 にわかっていないと同時に,その重要性を認 識していない。アルカイダの基地であり,核保 有国という事実がある一方で,パキスタン政治 の脆弱性・不安定さによる難しさがある。また 印パ緊張関係を含む地域は,難しい問題を抱 える。イスラエル・パレスチナ問題は,近い将 来に解決されるだろうとは見ていない。米中の 軍事的緊張関係については,米国が軍事的に 次第に弱い立場に立ってきており,この点は非 常に大きな緊張のポイントだ。

世界の危機と戦略的構造変化

 もう一つの問題が,西太平洋地域の安全保 障だ。台湾問題,すなわち台湾が中国に属す るのかどうかという問題がある。台湾問題で直 接的軍事対決はないだろうが,緊張が継続し ている。また南シナ海では領有権問題が起き ている。
 なぜこの地域はそれほど危険なのか?中東に ついていえば,地域的問題があるだけだ。即ち, イスラエルとイランの対決,サウジとイランの緊 張関係,トルコとの緊張など,地域的対決の みだ。
 ところが東アジアにおいては,とくに西太平 洋地域においては,米国と中国,さらに日本, ロシアを含む地域の大国の対立に至る可能性 がある。国際安全保障の安定性について,過 去において世界の国際秩序は米国とその同盟 国の利害を中心に形成されてきた。そして米国 は伝統的に対岸戦略をとってきた。隣国から の安全保障上の危機がなければ,対岸の安全 を確保するというものだ。米国はメキシコ,カ ナダからの危機はなく,それらの国々とは領土 を接しているに過ぎない。一方で米国は二つの 大洋に面しており,したがって欧州側とアジア 側の対岸からの安全を確保しようとする。それ がNATO 創設や日本,韓国,フィリピンとの同 盟関係,あるいはアセアン創設の理由である。 これらによって第二次大戦以降今日までの安定 が保たれてきた。
 今後はどうか。一番大事なことは,地球全 体において戦略的構造が大きく変化したので ある。すなわち,中国の台頭という問題であ る。これは15 年前に誰も予想もしなかった事 態である。私は90 年代から何度も中国を訪 問しながら注目してきたが,その変化がこれ ほどまでに早く大きく訪れるとは予想しなかっ た。中国を巡る情勢の意味するところは,世 界の多極化というよりは,明らかに新しい二 極構造,すなわち米中体制に移行しつつある ということだ。
 中国は周辺地域のみならず,シベリアやイン ド,アラビア半島を除くアジア全域を支配する 構えを見せている。米国がイラン問題を解決し, この地域に楔を打てるかどうかが重要な鍵とな る。さもなくば,パキスンタン,アフガン,イラン, イラク,シリア,レバノンから地中海に至るこの 地域にまで中国の影響圏が広がることになる。 この方向性がここ数カ月の間に決まる可能性が ある。
 アフリカ全体においては,すでに中国の影 響圏にある。アフリカに行ってみれば,現地で 起きている変化に驚くことだろう。中国人は政 府の建物を立て,道路,橋を作り,事業を興し,それらを担う多くの人を送り込んでくる。同様 のことは,南米大陸でも起きている。このよう な中国の影響は,世界どこでも見られるものだ。
 さらに欧州の経済的に弱い国々においても 例外ではない。中国は突如,ギリシア,イタリア, スペイン,ポルトガル,アイルランドなどに金融 支援をすると提案した。中国はそのような機会 への備えが十分にできていたのである。すで にギリシアには港を開き,南欧とのコネクショ ンも構築した。これが,必ずしも国民の意向 に左右されない中央集権国家の強みなので ある。

中国の世界戦略

 もし中国が世界第二の大国であるとすれば, アジア太平洋地域において何が起こるであろう か。これが決定的な問題だ。
 中国が二つの目標を持っていることは間違い ない。第一に,東経130 度のラインに影響を 及ぼすこと,第2 に東経180 度のラインに影 響を及ぼすことである。その影響圏を沖縄の 東,さらにはハワイの東にまで拡大しようとし ている。もちろん,中国は時期尚早に対立が 起きないように,非常に慎重に物事を進めてい る。そのために中国の現状と戦略についてしっ かり分析する必要がある。例えば,中国のパワ ーの源泉はどこにあるのか,弱点は何なのか, などについて分析する必要がある。
 中国を囲むように北西,南西,東に円弧を 引くことができる。最初の二つは陸上の円弧, 最後のひとつは海上の円弧である。歴史的に 見ると,中国はいつも北西の方から危機がや ってきたが,この危機はいま完全になくなっ た。すなわちソ連崩壊によって北西からの脅威 が消滅し,少なくとも軍事的リスクは存在しな い。ロシアの人口はかつてのソ連の約半分の1 億4,000 万人程度でしかなく,そのうち2,600 万〜2,700 万人程度のみが広大なシベリアに住 んでいる。ロシアにはこれ以上国土を広げる余 裕はない。これによって中国は,ここに安全な 国境をもつようになった。
 むしろ政治力学の中で,中国とロシアはこの 状況をうまく活用することができる。両国は常 に協力し合っているが,それは中露関係を発展 させることが相互にメリットになるという判断が あるからだ。すなわち,ロシアは中国から国際 的な影響力を保証され,逆に中国はロシアを 先頭に立たせることで他国に脅威を与えること なくソフト路線を取りながら段階的に影響力を 拡大することができる。
 中国は中央アジア諸国と軋轢を生じさせるこ とはないだろう。もちろんこの地域で中国の経 済的,政治的影響力は増しているが,ロシア に対抗するようなことはしない。それは得策で はないし,十分に時間をおいてその間に他の 地域に注力すれば良い。
 また中国の南西にはヒマラヤ山脈があり,そ の先のインドとは対立関係がある。しかし中国 はインドとのバランスをとりつつ,非常に「静か な国境関係」を作り出している。
 その結果,中国は東の海洋に力を投入でき るようになった。そして中国は,グローバル・ パワーになろうとすれば,海洋パワーにならな ければならないことを理解している。それゆえ 海軍力の急激な増強と海洋戦略の展開を行な っているのだ。
 ここで,中国の海洋戦略についてみてみよう。
 中国の東側に引かれた円弧は中国の海岸線 とほぼ一致する。これにはもちろん朝鮮半島も 含まれる。中国は北朝鮮との緊密な関係を通 じて,朝鮮半島全体,あるいは少なくともその 半分を影響下に収めることも可能だ。中国はこ の地域の情勢に目を光らせているが,それは日中の戦略的関係において朝鮮半島を影響圏 内に置くことが極めて重要だからである。台湾 はすでに中国の影響圏内に入りつつあるとも言 える。

 南シナ海では,U 字状に広がる境界線「9 段線」(Nine-Dash Line,U 字型ライン U-shaped Line ともいう)と呼ばれるものがあ る。「9 段線」は,1947 年に中国の国民党が作 成した地図に最初に登場するもので,このライ ンの内側にある島嶼と海洋及びその開発権は 中国に属するとする。この域内には,西沙群 島や南沙群島などベトナムやフィリピンと領有 問題でゆれる島嶼が含まれている。
 この地域には石油資源もある。その埋蔵量 は13 億バレルにのぼると予想される。より重 要なのは,ここが将来レア・アースの採掘拠点 となる可能性があるという点だ。また漁場もあ り,とくにベトナム近海は水産資源が非常に豊 富だといわれている。フィリピンでは,約150 万人が水産業に従事している。
 しかしこれらのことは決定的なことではな い。決定的なことは,地政学的,戦略的な観 点である。
 「9 段線」を中心に半径2,000 キロの円を描 くと,そこには東南アジアのほぼ全域が含まれ, さらにはオセアニアまで影響下に置くような状 況になるということだ。この地域に中国は海軍 基地を実質的に作ろうとしている。そうなった 場合にベトナムは,中国に自力で対抗する力は なくなってしまう。フィリピン,ブルネイ,マレ ーシアも同様だ。そうなると中国が東南アジア 全域を貿易も含めて完全にコントロールするこ とができる状況が生まれることを意味する。
 それによって中国は,この海域から米国の 勢力を追い出すことが可能となる。その傾向は すでに現れている。さらに言えば,インドの南 端は目前にあり,インド洋からアラビア海,ア フリカに向うルートが中国によってコントロールされるのは時間の問題だということである。中 国が真剣に海洋帝国を築こうとしているとすれ ば,もっとも戦略的に重要なのは彼らの950 万平方キロメートルの領土にこの300 万平方キ ロの海域を加えるということである。

この海域に,国連海洋法条約(UNCLOS)の 200 海里排他的経済水域を適用すると,フィ リピン,ベトナムなどのそれと重複する。しか し中国は,国際的なルールに従おうとはせず, それを無視して行動している。彼らは他国が従 う国際法規を遵守する姿勢がない。
 東シナ海では,尖閣諸島の問題がある。こ の問題を決して過小評価してはいけない。今 年5 月に中国の李克強・首相が,スイスとドイ ツを訪問したが,そのときおもな議題のひとつ として尖閣諸島の領有権問題を持ち出した。彼 らがあらゆる機会を通じて南シナ海および東 シナ海に関する中国の主張が認められるように政治的・外交的圧力をかけ続けていることを 知るべきだ。

 またガス田問題がある。これは決定的な問 題ではない。台湾問題もある。排他的経済水 域を拡大しようとしている。第1 列島線,第2 列島線があるが,中国は明らかに第1 列島線 内の海域を完全にコントロールしつつあり,こ の海域が中国の海だと主張している。興味深 いことに,北京オリンピックの後,彼らは初め て第1 列島線を越えて,第2 列島線まで影響 力を行使しようとし始めた。明らかに世界の注 目が止むのを待っていたのであり,オリンピッ クのあと直ちに行動に出た。
 かつて日本は「大東亜共栄圏」として東アジ ア地域に影響力を行使した。いま中国は同様 の概念を実行し,日本がかつて行なったと同じ ようにアジアを支配しようとしている。ゆえに 日本の構想からこのような戦略が出てきている のだ。彼らは経済的支配にとどまらず,軍事 的にもこの地域を支配しようとしている。非常 に危険な概念であり,戦争に発展する可能性 さえある。
 日本が大東亜共栄圏に向けていつどの地域 を支配していったかをみると,約半世紀の時間 を要したことがわかる。したがって中国もそれ 以上に時間をかけて,最善の時を狙って行動 に出ると考えるべきだ。これは今後5 年間で何 が起こるかといった話ではない。習近平や彼の 前任者,後継者が戦闘的かどうか,軍に近い かどうかというレベルの話ではない。長期的な 戦略の問題であり,我々は長期的な視点を持 つべきだ。

今後の日本の対中戦略

 日本がいまできることは,バランスと封じ込 めの戦略を取ることだ。日本がもしそのような 選択をするなら,それは米国との協力のもとに 初めて可能となる。中国はすでにいくつかの戦 略を進め始めている。あからさまな戦略では ないが,間違いなく進めている。日本はもっと 備えが必要だ。
 中国はアジア大陸最大のライバルであるイン ドに対し,米国と同様に対岸戦略をとっている。 それによってパキスタン,バングラデシュ,ネ パール,ミャンマー,スリランカなど周辺諸国 に影響圏を拡大してインドを囲い込もうとしてい る。すでにインドの北方と南方で優位な位置を 確保しつつある。
 これに対する答えは何か。協力関係を作る だけではなく,極めて戦略的にともに働いてい かなければならないということだ。まず日本は, 韓国,(台湾),フィリピン,ベトナム,マレー シア,ブルネイなどの“HIS”諸国(HIS: High Interest States)と関係を強化していかなけ ればならない。これらの国々は同じような状況 に置かれているからだ。
 HIS が中国に対してどれだけの勢力になれる か,HIS と中国との比較を見てみよう。陸軍で はマン・パワーがもっとも重要なので,中国に 利点がある。中国は人口が13 億人,HIS は合 計でも4 億人に過ぎない。しかしそれよりも, 海洋と空を支配する力をどちらが持つかという 点がより重要だ。GDP で比較すると,現時点で もHIS の方が大きい(中国;5 兆8,800 億ドル, HIS;7 兆4480 億ドル)。もちろん長期的には 若干の変化があるだろう。しかし希望がないわ けではない。
 そこでHIS にインドネシア,タイ,オーストラリ ア,ニュージーランドを加えた“GPS”諸国(GPS: Greater Potential States)は,中国よりもは るかに高いGD P(9 兆8,390 億ドル)を有する ことになる。
 ここで一番重要なポイントは,日韓関係だ。 韓国は中国と東シナ海をはさむ隣国で,この 地域でそれなりの空・海軍能力を有するのは日 韓両国だけだ。ベトナム,フィリピンはそうし た軍事的力を持っていない。それゆえ歴史問 題で日韓関係が難しい局面にあることは理解し ているが,日韓が一体化,協調することは非 常に重要なことだと思う。
 例えば,独仏両国は,欧州において百年以 上にわたって戦い,葛藤してきた。しかし現 在,独仏は欧州の中心軸としての役割を果たし つつ,EU をまとめる努力をしている。今後も意 見の違いはあるだろうが,両国はそれを克服す ることができるようになっている。
 民族主義的な観点から過去の歴史のみにと らわれるのは,決して健全なことではない。む しろ地域の国々の共通の利益を見出して将来 的な戦略を立てることの方が重要であり,日韓 にとってはこれが非常に重要であると確信して いる。過去のいろいろな傷があることは明らか だ。日本は大国であり,今も脅威に感じる国が あるかもしれない。しかし,まず日韓関係が最 初のステップとなるべきだ。
 日本は自国の力を過小評価すべきではない。 人口は英仏をあわせたよりも大きい。そして依 然として世界第3 の経済大国だ。また韓国の 発展は目覚しいものだ。必要なのは軍事的な 力だけではなく,政治的,経済的な力が統合 されなければならない。
 また外交の力を過小評価してはならない。 例えば,アラブ世界で最も影響力のある国は, カタールだ。カタールは面積が11,437 平方キ ロメートル,人口は140 万人と小さな国だが, しかし彼らは外交のためにかなりの予算を投入 し,さまざまな国際会議を主催している。非常 に能力のある,活発な外交官をたくさん有する。 オーストリアに赴任したカタール大使は,数週 間もすると私との会合を求めてきた。
 日本の戦略的優先順位はさまざまあるだろ う。日米韓の関係が基礎となることは明らかだ が,長期的には見て他国に過度に依存しない ためには,あるいは予見できない事態に対応 するためには,日本が自らバランス・オブ・パワーを作り出す努力が必要だ。そのとき韓国, ベトナム,フィリピンなどの国々が,西太平洋 において重要な礎石となる。
 私の考えでは,日本は日米関係と同じ程度 の優先順位でこれらの国々と関係を築いていく のが望ましい。これこそが日本の政治の中心で あり,長期的には日本の独立性を高めることに もなる。
 インドとの関係も重要だ。現在インドは米国 との関係を強化し,利害を共有しようとしてい る。米国が昨年行なった海軍の軍事演習の半 分はインドとの演習だった。これをみても米印 関係がどれほど緊密化しつつあるかが分かる。 インドは日本や東シナ海,南シナ海に面する 国々との貿易にも関心が高い。6 億人を超える 人口と経済発展が目覚ましいアセアン地域は, 彼らにとっても非常に重要である。
 以上が日本の3 つの優先事項だが,デリー に続いてブリュッセルとの関係も大切だ。それ は経済面でEU を重視するというだけでなく, NATO との関係があるからだ。なぜ日本はもっと 欧州との協力を強化しないのか。欧州は現在, 欧州自体の経済問題に没頭しているが,この日 欧協力関係を促進して欲しいと思う。
 軍事面でいえば,日本の立場もあるだろうが, 軍事費GDP1%枠は撤廃すべきだろう。過去10 年間(2002-2012 年)に日本の軍事費は約5% 減ったが,中国は208%拡大した。そのほとん どが海軍力と空軍力の増強に使われた。日本 の軍事産業はこのところ拡大していない。もち ろん武器輸出の規制などの問題があるが,日 本が持つ技術力をもっと駆使するべきだ。
 最後に,軍事戦略は戦略的優先としては, 最も重要な要素だが,少なくともそれと同じく らい重要な課題が人口動態の問題だ。人口の 減少傾向が続いたままでは,経済的,政治的 に発展するのは困難だ。この問題は深刻であ る。欧州も同じ課題を抱えている。これは考 える以上に深刻な問題だ。社会全体がこの問 題に対する意識を高め,それが最も重要なイシ ューであることを認識すべきだ。とくに若い人 たちが,この問題が将来の重要な課題だという ことを認識すべきだ。2040 年に日本の労働力 は,現在から30%減るとされ,生産力はかな り減少することになる。医療や年金などを負担 できなくなるかもしれない。
 結論として,私の助言は,日本が第一に西太 平洋地域の戦略的安全保障問題,第二に人口 動態の問題に集中することだ。その上でより積 極的な外交を展開し,誰も反対することのでき ない協力の概念をもって西太平洋諸国との強固 な関係を構築していけば,日本は政治的にも 経済的にも大きな成果を収めることが可能であ ろう。 (文責編集部)

■ Werner Fasslabend
1944 年オーストリア生まれ。ウィーン大学卒業。法 学博士。オーストリア史上もっとも長期にわたり国 防大臣を務める(1990 年12 月〜2000 年2 月)。こ の間,国防省の広範な改革に着手,新たな脅威に 対応するため国軍再編に取り組む。また将来の欧 州安全保障政策にオーストリアが積極的に参加する よう促し,1998 年に第1 回欧州連合国防大臣会議 を主催。1997 年に中欧諸国平和協力機構(CENCOOP) 設立。国民議会(国会)第3 代議長(2000 年2 月 〜2002 年12 月)。オーストリア国民党(ÖVP)労働者・ 従業員協会議長を経て,現在,オーストリア欧州安 全保障政策研究所(AIES)所長,ÖVP 運営委員会委 員・政治アカデミー会長,オーストリア・スロヴァキア 協会会長,イラン友好議員グループ会長。

(世界平和研究 No.198 Summer 2013)