統合医療の勧め

―患者中心の「人を幸せにする医療」

 

東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック所長 川嶋 朗




 20世紀に花開いた西洋医学は,もともと分析的手法を用いて病気の病態や原因の究明,その治療方法の開発を進めながら発展してきた。そのため病気のほうに焦点が当たりがちとの指摘がなされている。科学技術の高度な発展に伴い高度な医療が可能になる一方で,近年「生活の質」(Quality of Life)の重要性が叫ばれるようになり,病気だけではなく病人全体を治療するという側面に目が向けられるようになった。

 欧米ではすでに,伝統的な西洋医学の手法の欠点を補い,患者を全人的に治療できる相補(補完)・代替医療(Complementary & Alternative Medicine;CAM)が盛んに行なわれるようになっている。日本にはさまざまな民間療法の伝統があるものの,保険診療制度に漢方が部分的に組み込まれる程度で,日本の医療現場では西洋医学が主流を成している。

 そのような現状の中で,わたしは世界的にも関心が高まっているCAMに西洋医学的アプローチを包含した統合医療(Integrative Medicine)に関心をもち,医療の現場で実践してきた。そこでここでは,統合医療について紹介しながら,その中でも重要な概念である「冷え」について考えてみたい。


1.統合医療

(1)受診者主体の医療

 統合医療とは何かを説明する前に,統合医療の基本は,あくまでも「患者(市民)中心」だということを強調しておきたい。病院を訪れる患者の希望は何かというと,「早く治りたい」「完全に(確実に)治りたい」「痛くない」「(治療費が)安い」の四点に集約されると思う。医療従事者の側から言えば,「安全性」「有効性」などもあるかもしれないが,それらも究極的には上記の四つの中に含まれてしまうだろう。いずれにしても患者にとっては,上記の四点が揃っていれば,恐らくそれ以外の望みはないと思う。

 わたしたち医師の役割は,上述のような希望をもつ患者の目線,患者のものの考え方や条件に合致した治療法を提供することである。その観点からすれば,患者にとって,西洋医学,東洋医学,代替医療などの区別は本来関係ないものであって,患者にとってより安全で効果のある方法が最優先事項となるのだ。

 問題は患者一人ひとりで,置かれた条件がみな違うことだ。その患者に適した治療法を提供するためには,まず患者の話をよく聞くことが先決条件である。患者個人の性別,年齢,性格,生活環境,人生観,さらには生から死に方まで人生全体を包括しながら考慮する必要がある。そのためわたしたちのクリニックでは,初診の患者の診療は1時間を超える。

 「これ以上長生きしたくない」という人と「なんとしても長生きしたい」という人とでは,治療法は当然違ってこざるを得ない。それらを加味した上で,西洋医学であれ,東洋医学であれ,代替医療であれ,もっともその患者の条件に合致したものを提供するのが,統合医療である。生き方全体を医師と患者が力を合わせて考えることだとも言える。

(2)統合医療とは

 統合医療にはさまざまな定義があるが,わたしは次のように考えている。すなわち,「統合医療とは,個人の年齢や性別,性格,生活環境さらに個人が人生をどう歩み,どう死んでいくかまで考え,西洋医学,相補(補完)・代替医療を問わず,あらゆる療法からその個人にあったものを見つけ,提供する受診側主導医療」である。平たく表現すれば,「人を幸せにする医療」ということになる。

ここで,相補(補完)・代替医療(CAM)について,簡単に説明しておく。

 CAMは,近代的な西洋医学では一般に行なわれない方法,つまり近代西洋医学以外のすべての医療のことをいう。日本には漢方という健康保険で認められた医療行為があり,それをCAMと言うなという意見もあるが,それは日本の事情に過ぎない。例えば,英国では,スピリチュアル・ヒーリングも保険適応であるように,国の事情を言い始めると収拾がつかなくなるので,ここでは前述のように考えて話を進める。

 統合医療の中心が「受診者(患者)」にあるので,その目的のもとに統合医療はさまざまなものを統合し包摂することになる。例えば,治療医学と予防医学,保険診療と自由診療,客観的データに基づく医療と満足度を重視する医療,精神的対応と肉体的対応,対症療法と根治療法,短期的対応と長期的対応などである。

 患者を幸せにすると考えると,医療も治療という狭い領域を超えて,予防医学的視点も重要で,病気になりたくないという患者の願いもかなえていく。現在の日本の医療制度では,病気にならないと健康保険が適用されないために,予防的なことはその範囲外だ。予防医学的な措置がうまく機能していけば,医療費の削減につながると同時に,大きく投入すべき必要なところに集中的投資が可能にもなる。総合的に見て統合医療は理想的なものだと思う。

 ところで,統合医療に似たことばに「ホリスティック医学」がある。これを「全人的医学」と捉え,人を人として理解し,病気を見るのではなく人を見ながら治療を行うのがホリスティック医学だから,統合医療とほぼ同じ概念だと思う。人(患者)を中心に見る点は両者とも共通だが,統合医療では,患者の社会環境から人生観まで包括的に考えてよい治療法を提供しようとするので,ホリスティック医学よりも概念的には広いかもしれない。

(3)統合医療のための教育システム

 このような包括的な医療を実現するためには,日本の現行医学教育制度や医療制度には限界が当然出てくる。もちろん日本の医療保険制度はすばらしいもので,それを生かしつつさらに付け加えていくと考える。保険診療を理解した医師を育てるだけでも大変なことで,実際一人前の医師になるのに10年程度の歳月を要する。その上で別の療法を学び,それをものにするとなるとさらに時間がかかる。

 わたしの所属する東京女子医科大学では,統合医療に関する講義を医学部2年次のカリキュラムに組み込んでもらっている。講義でわたしは「西洋医学の勉強の手を抜くな。西洋医学の一流医になってから統合医療をやるべきだ」と学生たちに強調している。それは統合医療を実践する医師は,まず西洋医学の一流医であるべきだと考えるからだ。

 ただ,(現行制度では)大学の正規コースの中で統合医療の医師を育てることは難しいので,現実にはわたしたちがNPO法人「統合医療塾」を立ち上げてそこで医師を対象に統合医療の教育している。

 受講する医師には,医師免許取得後,臨床経験が少なくとも5年以上あり,可能であれば認定医をいくつかもち,さらに学位取得者であることを希望している。そのような条件を満たす医師となると,ある程度の社会的地位を築いている人が大半となるわけだが,それでも統合医療の門を叩いてくる人を求めている。そうでないと本物にはなれないと思う。この課程は1年で,一期生12名,二期生7名がそれぞれ修了した。

 また「日本統合医療学会」という学会では,昨年末より統合医療の認定医制度を設けた。その制度のセミナーを通して,統合医療に関する各論について勉強をさせる。そして認定医を取得した人に対して,臨床医としての指導力を磨くために,上述のNPO法人で症例中心の実践プログラムを行えるように,今秋から変更して進める予定にしている。

(4)課題

日本の代替医療に関しては,いくつか課題もある。

 医師免許をもった医師が行う行為を医療行為というが,日本では医師以外が行なう医療行為を法律では認めていない。そして医業類似行為として,鍼,灸,マッサージ,柔道整復の四つを認めている。しかし世界的にみれば,カイロプラクティック,オステオパシー,ホメオパシーなどが公認されている国もある。先進諸国の中でそれらが認められていないのは日本くらいだ。ヨーロッパで公認されているホメオパシーは,日本ではぜんぜん相手にされていない。

 ただ,民間の代替医療を行う施術者の中には,なにやら怪しげな施術を行って金儲けをしている人がいること,西洋医学を頭ごなしに否定しようとする人もいる。そのような人たちをどのようにして規制するかは,重要な課題である。

 例えば,これらの一部を医業類似行為として認定すれば,有資格者しか扱えなくなるので,中身が保証されるようになる。ホメオパシーは口の中に物を入れるので,医療行為と考えて医師の資格者のみに限定する必要がある。

 中には気功など規制のかけにくいものもある。英国ではスピリチュアル・ヒーリング,つまり(有資格者が行う)「手かざし」は保険診療と認定されている。すべて国が行う必要もなく,民間の信頼すべき機関(学会など)が行うことも可能だろう。そのようにしてしっかりした医療制度を整えていくことが必要だろう。

 一方,西洋医学者の中には代替医療によって患者が被害をこうむっているのではないかとの潜在的正義心があるような気がする。例えば,西洋医学の学会で代替医療を取り入れたプログラムを提案しても,臨床結果のしっかりしたものを提供するようにといわれたりする。

 また代替医療を取り入れると,混合診療の問題につながる。私は今の体制のまま混合診療を行うと,無法地帯となって被害者がたくさん出る可能性があると思う。昨年度,代替医療の被害者に関する東京都のパイロット調査を行ったが,3カ月で200〜300件も出てきた。このような現状を野放しにしたまま混合診療を行うことは問題が大きい。

2.「冷え」

(1)健康のメカニズム

 人間の胎生期,すなわち受胎から出産に至る9カ月足らずの間に,小さな受精卵は3キログラムの胎児に成長する。この驚異的な成長速度に匹敵する成長スピードを持つのはガン細胞しかない。

 人間が先天的にガンの遺伝子をもっていることは医学的に認知されており,それが誕生に関わるメカニズムに組み込まれた結果とすれば合点がゆく。受精卵の驚異的な成長や分化に,あるガン遺伝子は必須であるが,その発現は誕生と共に減退あるいは休止する。「休む」ということは,その細胞が何もしなければ読み込まれない位置に隠れて存在するということだ。

 ところが,人間が生活していく中で,過剰な紫外線を浴びたり,ダイオキシンのようなものが体内に入るなどすると,読み込まれるはずのないものが読み込まれてしまうことがある。これがガンの発生である。

 一方,人間の体内には,遺伝子の修復システムも働いており,たとえガン遺伝子が読み込まれそうになったとしても,ほとんどの場合その遺伝子は瞬く間に修復され,ガンは発生しない。しかし一部は修復しきれず,ガン細胞が発生する。ところが発生したガン細胞は,すみやかに免疫システムが消去してくれる。このようなダイナミックな生体反応,免疫システムの結果をわたしたちは「健康」と呼んでいる。

 その修復システムの働きを阻害するのが,交感神経の過度の緊張であり,低体温である。交感神経の緊張が長期にわたり続いたり,過度の緊張を強いられると,免疫システムは十分機能しない。また,低体温では体内の酵素がフルに活動できない。その結果,本来なら修復されるべき異常な遺伝子から異常なタンパク質が大量に発生して,体内に定着してしまう。

 このように免疫システムによる人間の自然治癒能力,恒常性(ホメオスタシス)を阻害する要因の一つが「冷え」なのである。

(2)「冷え」

 インド,中国から始まった東洋医学は,バランス,中庸をその中心概念におき,病気はバランスの乱れから生じると考える。すなわち,陰と陽,虚と実,裏と表,寒と熱などのバランスが崩れると病気になると考える。それで行き過ぎれば戻し,足りなければ補うという考えが基本にある。だから熱過ぎればさまし,冷えていれば温める,乾燥していれば潤し,湿気がひどければそれをとる。

 近代文明は,「冷え」が異常にクローズアップされる社会構造にしてしまった。エアコンの普及によって薄着するようになった。お腹や足を出すファッションが流行して冷えを促進した。女性にアンケートをとってみると,約4割の人が夏冷えを感じるという。

 冷蔵庫の普及のおかげで,その季節に存在しないものをたくさん食べるようになった。「旬」の食べ物は,そのときの環境をきちんとコントロールできるようになっていて,体にもよいものだ。夏野菜は体の熱を奪ってくれるが,それを冷房の中で摂取すれば熱がさらに奪われるので「冷え」を促進してしまう。

 「冷え」とは,手足や腰などがいつも冷たく感じる症状あるいは体質をいう。もともと東洋医学には「冷え」の概念があったが,西洋医学には「冷え」の概念はない。

 西洋医学は狩猟民族から生まれたものなので,敵をつくってそれをやっつける医療だ。バクテリアや病原微生物を原因とする疾病に対処する場合は,威力を発揮する。ところが,敵がいない(はっきりしない)場合はうまくいかない。西洋医学の検査では「冷え」はなかなか数値に表れてこないために,治療の対象とならずそれに悩む患者が少なくない。

 「冷え」は,漢方医学では「未病」(健康と病気の中間に位置するもので,検査では異常が見られないが自覚症状のある状態)の範疇に入るものだ。漢方医学では,病気を診ると同時に,その人の体質や傾向を理解し,その延長線上に病気が存在すると考える。そして体を構成する物質を,気・血・水の三要素でとらえ,「冷え」は気が足りない状態(気虚),血が足りない状態(血虚),血が滞っている状態( 血)として理解される。

「冷え」が高じると病気になるといわれる。東洋医学では,診療をするときに「腹診」(お腹に手を当てて診断する方法)を行うが,わたしのこれまでの臨床経験からいっても,うつ病,不妊症,ガン患者さんのお腹は,ほぼ全員冷えている。ヒンヤリとしていて,とても普通ではないと感じる。

それでは低体温(冷え)はなぜ問題なのか。

 人間の体内には生命活動を維持するためにさまざまな酵素が活動しているが,この酵素が最も活発に働いてくれる温度は,深部体温(直腸温)で約37〜38度である。体内が1度下がると,酵素の働きが50%程度に落ちるといわれる。低体温ではタンパク質の合成酵素が働かず,必要な物質がつくれない。例えば,脳内伝達物質や各種ホルモンができなければ,精神病やホルモン異常が発生するかもしれないし,遺伝子の修復酵素が働かなければガンやアルツハイマー病も誘発されかねない。

 また,体内では血液が常に循環しているが,赤血球は酸素を運び,白血球は免疫を担当し,血小板は損傷を修復し,血漿は栄養分を運ぶとともに老廃物を運び出している。血液の循環が滞ると,細胞が活発に働かなくなり,熱産生率も低下して,体温が低下し,酵素も産生できなくなる。このようにして,低体温(冷え)は代謝障害,免疫不全,損傷治癒不全などをもたらすので,冷えは万病のもとといっても過言ではないのである。

(3)体を温める

 既に見たように,実際に病気になっている人は冷えているために,酵素反応が低下して代謝が落ち,血液の流れが悪くなり,免疫力も低下する。それが心まで影響が及ぶと,再び体の異常をもたらすという悪循環に陥ってしまう。その悪循環を断ち切るのにもっとも簡単で手軽にできる方法が,体を温めることだ。それは予防のみならず治療にもなる。

 温め効果をできるだけ高めるには,どこを温めればよいかというと,血流の多いところとなる。血液がたくさん集まるのは筋肉である。体の部位で言えば,お腹,腰,お尻,太腿,二の腕であり,そこを集中的に温めると効果がある。お腹と腰は一番ポイントとなる場所で,とくに「おへそ」周りは,血液のほとんどがここを経由して流れている。また,下半身の要衝が太腿で,お腹から腰,太腿にかけて,全身の筋肉の7割が集中している。ここを温めればぽかぽかとなる(詳細については,拙著『心もからだも冷えが万病のもと』集英社新書,『川嶋朗式 冷えを取れば万病が治る!』別冊宝島等を参照のこと)。

3.ホメオパシー

 最後に,代替医療の一つホメオパシー(同種療法)について紹介したい。ホメオパシーは究極の自己治癒力を引き出すものといわれる。言葉を換えれば,「毒をもって毒を制する治療法」である。

 ホメオパシーは,今から200年以上前のドイツ人医師ハーネマンによって確立された治療法である。彼がマラリアの特効薬として知られていたキナの皮を煎じて服用してみると,高熱・発汗・衰弱など,マラリアとそっくりの症状を引き起こした。そこから次のようなホメオパシーの基本原理を導き出した。

@ある症状を持つ患者に,健康な人に与えた時と同じような症状を引き起こす物質を投与し,自己治癒力を刺激する。

A効果の出る最小限の投与量によって治療する。

 「症状を起こすものは症状を取る」との仮説のもと,ハーネマンは自分の体で人体実験を行ないながら,症状を引き起こさせる物質とその量を確定し,それによる療法を確立したのである。

 ホメオパシーは,「毒の情報を体に与えることによって健康を増進させる」という医療だ。検出できない程度にまで希釈された量の毒を体に入れることによって,この毒物に対する体の自然治癒能力を惹起し,毒が入ったときと同じ症状を呈する病気を治癒せしめるという考え方である。

 猛毒の場合,生命に危険が及ぶのでそれを希釈してみたわけだが,その実験の結果,薄めるほどかえって治療効果が高くなることがわかった。つまり,物質が存在しない程度まで希釈したとしても,このホメオパシーは効果を表すのだ。この点は現代の物質科学では理解できない。しかし,この効果は現代科学の手法によっても効くことが証明された。それは「二重盲検」という方法である。

 本物と外観や手触りなど全く同じに構成された2種類のニセモノを用意する。そして思い込みの要素(プラセボ効果)を排除するために,医者(試験者)にも患者(被験者)にも分からないようにして治験を進める方法である。

 ホメオパシーもこの方法によって証明された。1986年にReillyらによってLancet誌に“Is Homeopathy a Placebo Response?”という論文が発表された。これは標準的な無作為二重盲検法をクロスオーバーで用いて,レメディ(薬)の効果がプラセボ以上に統計学的に有意であることを報告した。そのほか,世界的にも有名な学会誌British Journalにも出て,88年にはNatureにも発表された(88年6月30日号)。その結果,米国やカナダ,ヨーロッパではホメオパシーは医薬品扱いとなるとともに,公的な医療機関でも認可されつつある。

 ホメオパシーでは各種疾患の治療のために,数千種類の物質をレメディ(薬)として利用するが,大部分は植物・動物・鉱物など自然界の産物であり,毒性の強いものも少なくない。ホメオパシーでは,毒を薄めた液体を砂糖玉に吹きつけたものをなめるのだが,玉の中に毒の情報があり,その情報が体の中を伝わることによって体が自己治癒反応を示して病気を治す働きをする。

 ホメオパシーは,不思議なことに薄いほど効き目がある。それならば究極的に薄いものを使えばいいはずだが,究極に薄いものは逆に反応が強いために,好転反応が強く起きることがある。民間の人があるホメオパシーを子供に与えて意識が3日間なかったことがあった。

 またある民間人のグループは一度に何種類ものレメディを投与するので,効いたとしても,どれが効いたのか分からない。また病気の進行と好転反応は病気を診たことのない人には,それらを区別することも難しく,誤った対処をすることになりかねない。医師の資格のない民間人が病気を治す行為を行うと,大変危険なことが起きかねない。ホメオパシーは,あくまで病気に対する治療行為なので,これは絶対に民間人が行ってはいけない。

 ところが日本は,ホメオパシーが医薬品でない上,それを医療関係者でない民間人が扱っていることが多い。そして彼らは「毒が入っていないのだから,100%安全だ。日本では医薬品でないので医者が扱うのはおかしい。」などと主張する。さらに西洋医学的治療の中止を迫るものまでいる。

 治療を選ぶかどうかの最終的選択権は,あくまでも患者の権利であって,それを行う者は治療に伴う危険(リスク)について説明する必要がある。薬を飲むな,ワクチンを打つななどと治療者側が言ってはいけない。

 今後,ホメオパシーは医療分野に生かしていくべきものであるから,セルフケアー程度であればいいかもしれないが,民間の人がお金をとって処方することは問題があるので,ホメオパシーを本当に生かしていくために規制をかけながら制度的にも整備していく必要がある。

 しかし,ホメオパシーはすばらしい治療法なので,わたしとしてはそれだけに正しく普及したいと思う。そこでわたしは,まず「日本ホメオパシー医学会」を通じて進めることが賢明だと考える。そこには有資格の医師,獣医師,歯科医師のみが入っており,それぞれ棲み分けをしている。教育プログラムも,Faculty of Homeopathyという英国の権威ある機関から著作権を払って導入し,認定医制度を設けて実施している。現在,日本でこの認定医が約300人となったが,何でもやれる専門医となるとわずか6人しかいない。

 レメディを決めるときには,自然界にある多種多様のレメディの中からその人の病気に合うものを選ぶために,その人の性格,生い立ち,好き嫌いなど把握しなければならない。現在レメディには約1万2千種類あり,それぞれが6〜10種類程度の濃度に分けられるので,相当な種類となる。それを選別できるのが「専門医」だ。それとともに西洋医学も駆使して,患者を診ていく。私自身も15年以上経験してきたが,なかなか奥が深くて簡単ではないことを感じる。

 ホメオパシーは,心の病気にも効く。例えば,深く沈みこんでしまった人には,海の深いところにあるものを使い,すぐに爆発しやすい人には火山のものを使う。その人の性格や背景などと似たような自然界にあるものを探してレメディを決めるのだ。「怖い」といっても,高所恐怖もあり,人が怖い場合もあるので,よく面談をしていかなければ,レメディを決めることはできない。

 ホメオパシーは,物質科学と非物質科学とのインターフェースとなりうるものだと思う。これが本当に証明されれば,気功などの非物質科学も科学的に証明されていくに違いない。

4.最後に

 ここに発熱を訴える患者がいるとき,この患者は何を望んでいるか。わたしたち医師は,次のように考える。

 次の日に会社にどうしても行かなければならないから,熱を下げて苦しさを取り除いてほしい場合には,熱を下げる治療をする。しかし,こうした対症療法では病気の根本解決にはならない。熱があるからといって薬(解熱剤や抗生物質等)で治そうとすると,実際にはかえって免疫力をおとしめてしまう。そこで医師としては,この治療方法では,病気の期間をいたずらに延ばすだけであることも,きちんと説明する。

 逆に,きちんと治したいという患者には,体を温める治療を行なう。東洋医学では,熱が出るのは体内に悪いものが入っているからだと考えるので,それを追い出すために体を温める。これによって反応が活発になる分,症状はきつくなるが,完全に治るまでの期間は短くなる。熱が出るということは,自然な生体反応である。普通体温は42度を越えることはないので,脱水状態だけを避けるように水分を補給してやればいいわけで,熱が下がるのを少し待ってやるのが賢明な策といえる。

 どちらの治療方針がいいかは,医師として答えを出さず,患者自身が判断するようにする。このように統合医療では,さまざまな治療の利点とともに欠点も明らかにして説明する。ゆえに統合医療は患者にはやさしいが難しい医療といえる。患者側から積極的に診療に関わる必要があるからだ。 

 最後に,「病気の原因はあなた自身にある」ということを強調しておきたい。軽微な体の不調から重篤な疾患に至るまで,その根本的な原因は患者自身にあると考える。その事実と向き合い,それを追求していかない限り,本当の治癒は望めない。

 患者(市民)自らが自分の体を守ることが基本であり,本当に対処が必要なときに病院にかかるのがよい。必要ないときにはできるだけ病院にかからない方がいい。そして予防に関心を持ってほしい。自分の体は自分で治せるはずだから,体を温め自己修復力を高めることができれば,それにこしたことはない。自分の生活習慣などの間違いに気づき,それを改めることによって自分の代謝や免疫力が高まり,体は自然とよい方向に働いていくのである。

(2009年6月5日)