混迷の中,良き概念を求めて



筑波大学名誉教授 加藤栄一



 少し前に東京大学法学部・北岡伸一教授の講演を聞いたが,「オバマ新政権と世界の新しい秩序」というテーマであった。その質疑を聞いていると,聴衆の多くは現在の混迷の原因を経済的金融的なものに求めているようであったが,北岡教授はそれに余り触れずにもっぱら政治的新秩序の話をしていた。北岡教授は政治学者であるからそのような話をするのは当然かもしれない。しかし,現在の世界的混迷を考えようとした場合に,政治学の専門家がその分野だけの話をしていればいいというわけにはいかないと思う。そこでここでは,私は学際的観点から大胆に論じてみたい。

T.2008年秋「恐慌」以降の世界の政治と経済

1.国家の変化

 「恐慌」を英語でdepressionまたはpanicという。Depressionといえば,1929年の大恐慌(the great depression)が典型だが,普通の景気後退(recession)よりは厳しいもので,金融パニックの後に引き続き実体経済の深刻な下降が長期化する状態をdepressionと呼ぶ。この意味の「恐慌」がこれまであったかについては,学問的にも議論があるところだ。事実,先般英国の首相が今回の経済危機をdepressionと呼んだら野党議員に突っ込まれたことがあった。オバマ米大統領もdepressionとは言わないが,recessionよりは厳しい状態と表現している。このようなことを総合すると,今回の経済危機はdepressionの一歩手前の状態であると考えられ,このことを本稿では「恐慌」と称することにする。

 08年秋,リーマン・ブラザーズの破綻以降の経済危機は非常に深刻で,実体経済にも大きな影響を及ぼした。この間の様子を見ながら,私が一番感じた点は,国家の地位の変化であった。すなわち,かつては国家の中にマーケット(市場)があったのに,現在では世界的な大きなマーケットの中に国家が,企業などと並ぶ一プレーヤーとして存在しているという状態だ。例えば,アイスランドの銀行一つが,同国の国内総生産の数倍の資産(負債)をもっている。

 オバマ以後,再び「大きな政府(強い国家)へ」行くかもしれない。

2.オバマ大統領による変革

(1)根本価値観

 オバマ大統領は多面的で流動的であるために,なかなかその性格をつかみにくいが,その根本的価値観は,米国建国の精神とリンカーンの精神と思う。すなわち,自由,平等,統合である。多種多様な要素を持つところに米国の強みがあるわけだが,それらはきわめて強い統合の努力を必要としている。

 オバマ大統領の就任演説に「マーケットほど富と自由を生むものはない。」という言葉があった。しかしマーケットは貪欲(greed)によってではなく,規制によって導くべきものだとも考えている。これは後に,社会主義的な,国家資本主義的政策につながるものである。また貧民を助けることは,彼の価値観にしっかりとあるようだ。

 一方,イデオロギー(正邪善悪で国家関係を見る見方)は後退したと見られる。この点は外交評論家の井上茂信が主張しているように,ブッシュ大統領はイデオロギーが非常に明快であったが,オバマ大統領はその点で後退した。

(2)政策

 前節の価値観から次のような政策が導き出される。

@ 所得再配分

 95%の国民に減税し,その埋め合わせとして富裕層に増税するという税制による平準化である。ブッシュ大統領期に,資本家の税金が非常に安くなったことが背景にある。オバマ大統領は,選挙期間中にウォーレン・バフェット(Warren E. Buffett)という世界一の投資家に会った。「自分の秘書が払っている税率よりも,自分の税率の方が低い。これはおかしいのではないか」と金持ちの彼自身が言ったことに触発されたようだ。投資を盛んにするために,ブッシュ政権はキャピタル・ゲインに対する税を下げたので金持ちの税率が低くなった。そこでオバマは金持ちに増税し,95%の国民には減税することを考えた。

 しかし,この政策を実行するとどうなるか。資本逃避が起こるだろう。また景気浮揚策として減税する場合,どのくらいの額になるのか。米国民の家計の過剰債務が3兆ドル(約300兆円)といわれるが,それを小切手バラマキの減税措置で救うとなると膨大な予算が必要となる。

A景気浮揚効果を狙った公共投資

 これはグリーン・ニューディールと呼ばれ,インフラ(道路,橋など)の整備や環境対策などを主眼とする投資である。この問題は,この政策に「バイ・アメリカン条項」(鋼鉄などの資材は米国製品を買えという義務付け)が入っている点だ。これを進めると保護貿易につながる。

かつて1929年の大恐慌のときに,米国は国内産業保護のために高関税をかけたが(スムート・ホーレー法,Smoot-Hawley Tariff Act,1930年6月成立),それに対して欧州の他の国は報復措置として同様に高関税をかけ応酬した。その結果,輸出入が滞るようになり,世界恐慌が深刻化した。この過ちを繰り返してはならない。

B金融機関その他経営悪化の企業に対する公的資金投入

 昨秋ブッシュ政権は,金融機関に対して70兆円規模の投入を決めたが,そのうちに金融機関以外の一般企業へも資金を投入することになった。すなわち,当初は不良債権だけを買い取ろうとしていたが,その後資本に投入しよう(オバマ政権になってさらにプラス70兆円)というように変化していった。しかし,不良債権全体をみると約4兆ドルとなるので,@の3兆ドルに加えると膨大な金額となる。不良債権に関しては,バッドバンク(Bad Bank)を設立して買い取るとの構想があるが,実現するかは不透明だ。今後,GMやシティ・グループが解体や国有化されるというような想像もつかなかったところまで進むことも考えられる。そのように「恐慌」が深化していくと,一層の資金注入を迫られることにもなりかねない。

 その一方で,経営者報酬の規制など規制も強化されるだろう。

C福祉医療

Dアフガニスタンへの派兵

 イラク戦争の開戦理由について当初ブッシュ大統領は,イラクが大量破壊兵器を隠しもっていることを挙げていたが,よく調べてみると見当たらないことがわかった。またアルカーイダのテロ組織がいることもその理由にしていたが,それもいなかった。結局は,石油の利権ではなかったのか。

 それと同様に,オバマ大統領のアフガン派兵の目的は一体何なのか。私には正直なところよくわからない。しいて考えてみると,ウサーマ・ビンラーディンを逮捕して裁判にかけることだろう。このままであると,目的のはっきりしないままずるずるといってしまう可能性がある。

 こうしたことがすべて国家管理資本主義,ないし社会主義,少なくともリベラリズム,さらには国家財政の更なる悪化,ドル覇権の衰退へと導いていくに違いない。

3.日本の政治と経済

(1)経済の危機に対してあまりに卑小な政治

 英国の雑誌Economist(Dec.4,2008)は,日本の政治状況を報道した記事に“Can this place be governed? ”(日本は統治できるのか)と揶揄したタイトルをつけた。

 日本には,二種類の政治家があって,一つは「選挙政治家」(大臣,国会議員),もう一つは「試験政治家」(官僚)である。前者は二世・世襲議員が多数を占め,後者は価値観教育が不在で,国のために命を捨てるという価値観がなく,もっぱら国益より私益優先だ。しかもその両方が劣化しつつある。それゆえ両者に制裁を課す必要があるのではないか。例えば,前者に対しては,世襲立候補を禁止する,後者に対しては天下りの禁止である。

 ところが,現在は,試験政治家を抑える役割を持つべき選挙政治家が無力であるために,抑えきれていない。昭和戦前の軍部のように,勝手な官僚がはびこって官僚国になるかもしれない。現に,先般「天下り禁止」の法律を作ったら,それを政令段階でくぐるという法律違反をした者がいた。

 これに対して民主党は,批判し対策を掲げているが,その主なものは政治家を官界へ大量任用するというものだ。政府の中,すなわち,大臣,政務官,副大臣,さらには局長や審議官にまで,200人余りの代議士を入れ込もうという。従来確立していた「能力主義人事」を完全に破壊するものであり,さらに国会議員が行政に入るわけだから「三権分立」も破壊するものだ。これらは非常に問題が多い。

 しかし,世論は自民党を叩いているので,今年の総選挙では民主党に有利な情勢になるに違いない。

(2)格差社会

 昔の日本は「士農工商」の社会であったが,現在は「士農公正非」と表現したい。すなわち,「士」は弁護士,公認会計士など資格を持ったエリート,「農」は農家,「公」は公務員,「正(しょう)」は正規社員,「非」は非正規労働者である。このような格差社会ができつつある。



4.2008年秋「恐慌」の対策と日本

 私は,世界マーケットへの規制を企図した「世界金融庁」を創設してはどうかと考える。例えば,米国の銀行は州の法律で規制されているだけで,連邦レベルでの規制がない。それと同様に,世界各国の銀行はその国の法律にだけ規制されている。世界マーケットで動いているのに,それを監督する金融庁がないので,それが必要だろう。

 また財政の強力なケインジアン的出動が必要だ。いまや政治家もみなケインジアンになってしまった。1929年来の大恐慌のときは,ヒトラーもルーズベルトもケインジアン政策を取ったのだが,彼らはケインズ理論を知ってそうしたのではなく,本能的に行った政策が結果的にケインジアン政策であったのだ。

 そのためには財政に余裕がなければならない。果たしてその余裕があるのか。図1を見て,「日本はかなりの借金を抱えていながらも,国はつぶれず,国債の利回りは低く今も売れている。ならば他国も日本並みに借金できるのではないか。」と考える世界の人も出てくるだろう。さらに日本にしても現在消費税が非常に低いから,それを欧州並みに高めれば財源ができるので,日本とて余裕があることになる。

 したがって,主要国が協力してケインジアンとなり,財政出動を行う。ただ,ケインジアン政策にも限界がある。経済学の理論によれば(「乗数効果」),公共投資1兆円を行うとそれが回りまわって5兆円規模の国内総生産の増加となるという(貯蓄率20%と仮定)。その計算のときに乗数を通常5くらいにしているが,実際には1.0〜1.5程度ではないかとの修正値が最近出されるようになった。それゆえケインジアン的財政出動にも限界がある。最近政府が進めている「定額給付金」2兆円を出しても,それほど効果がないのではないかというのは,その意味である。

 日本は円高を恐れる必要はない。円高になると輸出減につながるとして恐れているが,米国からの資本逃避とあいまって日本への投資が増える可能性がある。そこで内需を呼び起こすために,公共投資を再び行う。例えば,道路特定財源は不要だとの議論があるが,それを東京の洪水対策に回す。

U.自然科学

1.カテゴリーの再編成と全知識の統一

 カテゴリーとは,アリストテレス以来の哲学的用語である。とことんまでものごとを分類してたどり着いた究極の大分類で,精神,生命,物質,エネルギー,時間,空間などというように分けられた。これらは他の大分類から独立していて他の分類からは説明できないとされる(図2)。

 「物質がなくても時間,空間はある」と考える人が多いが,実際には物質がなければ時間も空間も存在しない。宇宙とは物質がある範囲であるから,その外側は時間も空間もないからだ。さらにE=mc2によりエネルギーは物質と同等となる。そうなると,エネルギー,空間,時間はつながり,それらは物質に依存するカテゴリーであることがわかったので,再編成する必要が出てきた。

 また情報という新しいカテゴリーが出てきた。情報は,精神,生命につながるものだ。

 このような自然科学と哲学との相互作用は,かつてマルクス・エンゲルスの時代まではよく思考されていたが,最近は学問の細分化によってほとんど議論されなくなり,重要な問題がなおざりにされている。

2.物理学

 物質はなぜ生まれたのか,なぜ宇宙の中で物質が優勢なものとなったのか。物質はそもそも質量のあるものだが,なぜ質量があるのか,なぜエネルギーを蓄えているのか。このようなテーゼを研究しようと,欧州ではCERNのLarge Hadron Colliderが昨年完成し,研究が進められている。一部故障があって遅れているようだが,近く稼働し始めるだろう。そうなると物質に質量を与える粒子(Higgs粒子)が発見されるかもしれない。

 日本にも素粒子研究施設がいくつかできている。筑波の高エネルギー加速器研究機構(KEK),東海村のジェイパーク(J-PARC),兵庫県の高輝度光科学センターなどである。日本の特徴は,大きな根本的原理発見のための施設は欧州に任せて,実用に特化している点だ。この研究からも大きな発見が出てくるに違いない。

3.医学

 医学分野では,現在パンデミック(新型インフルエンザ)の脅威がある。ある感染症や伝染病が一定の地域に流行するのがエピデミック(epidemic,地方流行)で,世界的に流行するのがパンデミック(pandemic,感染爆発)である。しかし,なかなかそれに対する政策までいっていないのが現状である。

一方,エイズでは,薬が発見されつつある。

V.情報時代の未来

 情報産業は,情報ハード,情報ソフト,ITサービス,通信の4つの部門に分かれるが,それぞれ四分の一ずつの売り上げをもつ。

1.情報ハードの発展

 スーパー・コンピュータからケータイにまで,至るところで改良が起きつつある。また,ロボットという形でも発展しつつある。

2.情報ソフトの発展

 クラウド(雲,cloud)が形成され,発展して実体化しつつある。これはインターネットにつながったソフトで,無限の恩恵を呼び出すことが可能だ。まるで神様のようなものだ。

 ソフトの特徴は,複製可能性と保存性,伝送可能性である。それゆえソフトは蓄積されて世界の富になる。将来の世界は,蓄積されたソフトという無限の富をもつことになる。

3.ITサービスと通信の発展

 これはすでに産業化されている。

4.生物情報の利用と保存

 生物情報はまだ産業化されていない。南米の生物情報は保存しておく価値があると思う。

5.情報の過剰と悪用

W.エネルギーの未来

1.電力への一元化の進展

 現在のエネルギーの特徴は,電力への一元化に進展しつつあることだ。すべてのエネルギー源が電力に転換され,電力がすべてのエネルギー用途に向けられる。かつては天然ガスを台所に使ったが,今では天然ガスを電力に転換してから台所に持ってくる。

 自然エネルギーの増加によってその電源が,風力,太陽光など分散化し小型化したものになると,送電・蓄電の技術がより重要になる。すでにオバマ大統領は,スマート・グリッド(賢い送電網)を提唱し,家庭などで分散発電した電力を双方向的に調整して送電する計画を進めている。

2.環境負荷のトリレンマは6Eシステムで解決

 経済を発展させるためには,エネルギーを増加させなければならないが,そうすると環境には負荷となって作用する。これがエネルギー,経済,環境のトリレンマである。これを解決するために,私は6Eシステムを考えた(図3)。

 例えば,環境工学などの技術が開発されるとエネルギーは効率的で少なくてすみ,さらに環境にも良くなる。教育を高めると環境にも技術向上にもプラスに働く。教育によって雇用をよくすると経済も発展するなどである。これを社会工学のシステム・ダイナミックスと呼ぶ。

3.化石燃料

 化石燃料は,以前から「もうなくなる」と何度も言われてきたが,まだ埋蔵量はある。問題は開発のコストだ。石油資源がなくなるから「石油時代」が終わるのではない。「石」がなくなったから「石器時代」が終わったのではないのと同じ論理だ。

X.宗教の使命と修正点

 諸宗教には科学の発展とも矛盾しない有用な使命があるが,その一方で,世界平和の観点から見た場合に,宗教的対立が抗争,テロ,戦争などの原因ともなっている。そこで諸宗教の側においても修正がなければならないと考える。

 とくに一神教においては,信ずる神を唯一・絶対・全能とするために排他性が強いので何とかしなければならない。例えば,ユダヤ教に対しては,ヨシュアとその率いる軍勢に向かって都市を襲い住民をひとり残さず皆殺しにせよと神が命じ,それを実行したことが記載されている「ヨシュア記」を聖書から外して「外典」にする。キリスト教の「ヨハネの黙示録」を外すことやイスラームのジハードなどの概念放棄である。

 これまでも各宗教の神学者たちの解釈によってそうした経典の一部が修正された例もあった。あえて大胆に経典の修正を唱える次第である。

(加藤栄一「ビュー・ポイント」「世界日報」2009年1月7日付け参照)

Y.文学芸術の使命―文科の力

1.人間(らしさ)の存続のために

 人間らしさの存続ためには,やはり文学・芸術が必要だ。コンピュータによって顧客を管理し,金儲けに走ることによって人間らしさを喪失してしまう。また科学の発展も人間らしさを損なうことにつながる。もろもろの悪と社会のゆがみに対しても,文学・芸術は大きな働きをする。

 とくに最近は秋葉原の無差別殺傷事件など,理解しかねる現象が多い。このようなことに対して,ドストエフスキーやトルーマン・カポーテのような作家が現れて,文学的観点から問題の本質を解明してほしいと思う。

2.歴史と民族の研究のため

 「田母神論文」で著者は,日本は侵略国家ではなかったと主張した。ただ,その論拠は,われわれ学者から見ると荒っぽいとの印象を受けた。例えば,盧溝橋事件(1937年7月)は共産党が起こしたという説について,私も魅力を感じて,その証拠があるのか探ってみた。しかし,その証拠はなかなか入手できない。田母神俊雄(元航空幕僚長)はそのような証拠を確保せずに論を展開しており,その点が弱い。

 いずれにしても,歴史と民族の研究のためにも,文学・芸術の使命がある。

3.言語・概念・表象を扱う力の発展のために

 言語・概念・表象を扱う文学・芸術は,ものごとをすっきりわからせる力,人の心を動かす力をもつ。それは社会をも変革する。

Z.PWPAの使命

1.対象(問題群)―世界平和と諸文明の前進

(1)戦争

 まず,核戦争だが,一番可能性の高いのはイランの核武装とイスラエルによる先制攻撃だろう。アフマディーネジャード・イラン大統領は,「イスラエルは消え去るべきだ」と主張して,核兵器,ミサイルを開発しているので,イスラエルには相当の脅威だ。米国自身は直接攻撃しないだろうが,イスラエルにイラン攻撃をさせるかもしれない。ただ,ハタミが新しいイラン大統領になれば,多少対立が緩和するだろう。

 次に,新帝国主義戦争である。領土,資源,市場を求めて,ロシアや中国が拡張している。

 テロリズムと暴力革命。私はテロリズムの根底には悪想念があると考えるが,それが生産・拡大され,悪想念を持った孤独な者が組織化されると国際的テロ組織につながる。これは思想の力で解決できると思う。

 中東やスリランカでの紛争のような,宗教間の抗争があり,アフリカなどには抑圧と内戦がある。

(2)貧困と疾病

(3)環境破壊

(4)家庭の崩壊と価値観の乱れ

(5)貪欲の支配

(6)中国とインド

 今後の世界において中国とインドが非常に巨大化するだろう。2050年ごろの世界では,第一の経済大国は米国だが,第二が中国,第三がインド,その次に日本となるだろう。中国とインドとも西欧文明に飲み込まれない文明の力を持つので,今後これら二大文明の研究が必要になる。

 インド文明侮るべからず。インド文明と中国文明のどちらが優れているか。このテーマについて,小室直樹は「インド文明だ」と結論付けた。一般に,文明は優れた方から劣った方に流れるものだ。医学,天文学,仏教などすべてインドから中国に流れたが,逆はなかった。

2.方法

(1)シンクタンクとして

 PWPAはシンクタンクであろうとしているが,今後は概念作り(conceptualization)に重点を置いてはどうかと考える。PWPAはシンクタンクとしての資源(resources)が不足しているから,問題の全人類的解決のため最も必要な「概念作り」にエネルギーを集中してはどうであろうか。

 それでは,問題解決の順序はどうなるか。P.E.K.(Policy Establishment Know-how)をもとに考えてみる。

 まず,さまざまな問題があるのでそれらを漠然とでも問題状況図に表してみる。そこに政治家の価値観(何が重要で,これを解決するというもの)をぶっつけ,目標を選択する。それを達成するための問題点を指摘する。そこから問題群を形成して対策を練る。対策を複数つくり,それらについて費用効果分析を行う。その中から優先順位をつけて選択する。最後に順序付け(アジェンダ設定)を行って,実行に移すのである。

 新しい複雑な現象の中で,問題や対策をはっきりつかむためには,議論して「それ」の概念を作り,「それ」に名を与え,「それ」を定義しなければならない。そうして初めて共通理解と協力が得られ,定量化,システム化,計算も可能になる。これを「概念作り」という。

 国連と関連機関は,その実行において多くの批判があるが,概念作りについてはかなりの成果を挙げてきた。例えば,「ガバナンス」「グッド・ガバナンス」「グローバル・ガバナンス」「持続可能な成長」など有用な概念が多くある。

 価値の問題を排除せず,しかし多様な意見の持ち主が自由に集まり,知性を自由にぶっつけあうPWPAは,概念作りに向いている。「霊主知従」(霊性によって,知性の悪魔的使用を防ぐ)は,またインスピレーションをも生むだろう。得られた貴重な「概念」は,いろいろな方法で提言・普及する。

 日本人は概念作りよりも実行が好きだ。「不言実行」と言って,すぐに十分考えたり議論したりせずに,実行にとびつきやすいが,その結果しばしば失敗する。あるいは外国でできた概念を翻訳して使うことばかりやっている。しかし,国際的にはそれでは通用しない。日本らしい概念,例えば,「和」「終身雇用」なども有用であろう。

(2)運動体としての活動

 PWPAは,従来から運動体としても活動してきた。

 ところで,文鮮明総裁が三権分立に代わって「五権分立」を提唱されたというので,それを図示してみた(図4)。古典的三権分立では,三権は分立するだけではなく,互いに抑制・均衡する。そこにはチェック・アンド・バランスが機能している。

 柿沢弘治は,「グー・チョキ・パー」と表現した。それは「官僚」は「民間人」より強く,「民間人」は「政治家」より強く,「政治家」は「官僚」より強いというように,それら三者はグー・チョキ・パーの関係同様,それぞれが最高に強くならないよう抑制均衡しあうのが,民主主義だという意味である。

 「五権分立」では,上半分は古典的三権分立と同様だ。以前より,メディアは「第四権力」といわれてきたが,そこに金融を加えた。これは非常に卓見だ。しかも金融を支配する財界はメディアを支配する力(広告)を持っている。こうした力によって横暴なメディアに対するチェックが働く。また現代の金融は前述したように「世界金融庁」のような機関からのコントロールを受ける必要がある。三権分立は,国内政治であったが,五権分立では金融に対して世界的なチェック機能が加えられることになる。

 最後に,「文明大学設立準備財団」を一般財団としてさっそく作ることを提言して,終わりとしたい。

(2009年2月22日)