朝鮮半島の非核化と米国の役割

UPF調査研究・特別プロジェクト担当ディレクター マーク・P.バリー 

 

 北朝鮮の核問題は,より大きな問題の一つの症状である。すなわち,1945年に南北に分断し,南北両国および主要国がその不自然な分断を終結することができなかったことが,朝
  この問題は単に朝鮮戦争の休戦協定を終結させることでも,あるいは講和条約の不在でもない。この問題は,朝鮮半島が決して分断されてはならなかったにもかかわらず,米国,ソ連,日本の責任により,1948年以降一つの民族に二つの主権国家が存在してきたということである。これら二つの国家は1991年に国連に加盟したが,興味深いことに,2007年1月にそのうち一方の国家の国民が国連の事務総長に就任する予定である。

 重要なのは,北朝鮮自体が核兵器やミサイルを保有しているとしても,それが問題の本質ではないという点である。北朝鮮問題を適切に解決することは,実は最終的に南北分断の根底にある不当性を明らかにするということである。それは南北両国の責任であると同時に,主要国の責任でもある。61年間という十分過ぎる年月が流れており,南北両国は解放と分断から70周年を迎えるまでに,統合と最終的な統一に向けた大胆な一歩を踏み出すべきである。

米国の責任

 率直に言えば,2000年6月の金大中大統領と金正日総書記の頂上会談以来,朝鮮半島に肯定的変化をもたらすことができたはずの6年間が浪費された。米国はこのことに対して大きな責任がある。同様に問題だったのが,実証的に北の核計画を停止させた1994年の米朝枠組み合意である。北朝鮮が秘密裏に高濃縮ウラン(HEU)開発計画を始めたのは,クリントン政権側の言行不一致を認識した結果であり,ブッシュ政権も2002年10月当時よりも対立の少ない方法でこの問題を処理することができたはずである。しかしながら不用意な外交を行った結果,枠組み合意が崩壊してしまったのである。そうこうするうちに,韓国に反米的な政権が誕生してしまい,米国との関係を悪化させる結果を生んでしまった。

 さらに,2001年1月の時点でクリントン大統領と金正日総書記が頂上会談を行う明確な可能性が存在したにもかかわらず,米国は2000年の大統領選挙で36日間にわたって明確な勝者が示されなかった際に,北朝鮮とのミサイル協定に関する交渉を打ち切るという選択をしたのである。もしクリントン大統領が平壌を訪問してミサイル協定に署名していたなら,米朝関係はどれほど異なっていたことであろう。リエゾン・オフィスを開設して関係正常化を目指すことができたであろうし,経済的・政治的孤立が緩和されることで北朝鮮が社会的に開かれ,外部からの新たな影響を受けていたであろう。
今日,米国の立場上,北朝鮮の核問題を孤立した問題として見ることはできない。米国は

 中東でより大きな問題を抱えているのである。イラクは事実上の内戦状態にあり,イランはけんか腰,アラブとイスラエルの紛争は容易に戦争に再突入する可能性がある。ヨルダン国王アブドラ2世は06年11月末,この地域では一つではなく三つの内戦が勃発寸前であると警告している。

 中東と東アジアでこのような多数の危機を抱え,米国の威信喪失は深刻な状況である。その影響はベトナム撤退よりもさらに厳しく,長期にわたるものとなるであろう。米軍が2008年までにイラクからの撤退を完了するか否かにかかわらず,2003年のイラク侵攻が結果的に大失態に終わったことで,米国はもはや一極世界における優位性を維持することはできないというのが大方の見方となるであろう。米国はもはや,政治的手段によっても軍事的手段によっても,その意思を一方的に押し付けることはできず,他の主要国と共に働き協調行動をとらなければならなくなるであろう。

北朝鮮問題解決の方向性

 皮肉なことに,北朝鮮問題は今のところ最も容易に解決できる危機である。ジョージ・W.ブッシュ政権の政策は,当然のことながら道徳的ではあるものの,本質的に非現実的であり逆効果であった。これは6カ国協議――南北両国と四つの主要国が初めて参加した――が本質的に正しい方向に進んでいるという事実を考慮しても言えることである。問題は,四つの主要国の中で米国だけが,明確な定義もなしに政治的・経済的圧力による北の体制変化を事実上の政策として追求してきた点にある。実際にはその崩壊をもたらそうとしている政権に対して,なぜわざわざ交渉するふりをする必要があるのか。

 米国が2003年からこの戦略を続行している間に,北朝鮮はさらに多くのプルトニウムを再処理し,10月には未完成の爆破装置の実験さえ行った。北朝鮮は崩壊しなかった。実のところ,あらゆる形の圧力や自然災害に耐えるその能力は,恐らく世界に比肩するものがないであろう。 

 もっと重要なのは,この政策によって,米国の圧力に対する埋め合わせとして隣国の中国と一時的に協調する道に北朝鮮を追いやってしまったことである。そして中国は喜んでこの役を買って出た。その結果はどうなるだろうか。最低でも,北朝鮮に対する中国の経済的・政治的影響は(歓迎されないことではあるが)徐々に増大するであろう。最悪の場合,中国が北朝鮮の経済を自身の経済と緊密に結びつけ,北が事実上の中国の属国となってしまう可能性がある。それは,南北の分断がさらに長年にわたって継続することを意味する。そして,もし私が(北,南,あるいは海外の)韓国(朝鮮)人であったなら,私はもう一つの主要国が再び自国の運命を決定することに憤慨するであろう(そしてこの場合,それは帝国主義的な動機というより無知の結果である)。

 米国の政策立案者たちはそれほど単純なのであろうか。私はそうは思わない。しかし私が達した結論は,ブッシュ政権が核危機の最善の解決策は,金正日が政権を握っているか否かにかかわらず,北朝鮮を中国の保護下に置くことだと信じているということだ。それは中国が北朝鮮を安定化させる――説得か強制かいかなる手段を用いるにせよ――という仮定に基づいている。なぜなら,中国はとりわけ北東地域の国境地帯の安定を求めているからである。

 皮肉なことに,信頼できる情報筋が示唆するところでは,北朝鮮は周辺のすべての“帝国主義”国家――中国,ロシア,日本,米国――の中で,“国家の独立”(すなわち政権の存続)を維持できる最も可能性の高い方法は,米国との関係改善であるとの結論を下している。このため,北朝鮮はその核兵器開発計画を第一に自国の安全を保障するための抑止力として使っているものの,軍事的手段によって自国の安全保障を確保する方法を転換し,米国との新たな信頼関係を見出したいと望んでいることを示唆する証拠がある。言い換えれば,もし米国と最高レベルで始まる本物の信頼関係を確立し維持することができれば,北朝鮮は完全で立証可能かつ不可逆的な非核化を実行する意志があるのである。北朝鮮は他の隣国と比較して米国を脅威と感じていないばかりか,もはやロシアに傾くことによって中国との関係のバランスをとることは不可能なのである。なぜなら,今日のロシアは政治的にも経済的にも脆弱過ぎるからである。

 明らかに,もし米国がこの事実を理解し受け入れたならば,これらの可能性を慎重に追求しテストすることが,紛れもなく米国の利益にかなっていることを理解するであろう。このプロセスを始動させるため,ブッシュ大統領が官民いずれかの立場のハイレベル使節を送り,金正日と会談させる方法が考えられる。候補としては,ライス国務長官,ジェイムズ・ベイカー ,コリン・パウエルが挙げられる。あるいは大統領の父親,ジョージ・H.W.ブッシュでもよい。しかし北朝鮮の独特な社会構造および体制力学においては,この信頼関係の開始はシニア・レベルの約束を通してのみ達成されるのである。6カ国協議の主要な交渉人も含め,官僚レベルでは達成できない。6カ国協議は再開されなければならないが,長期的には彼らはそのようなシニア・レベルの合意事項を確認し補強すべきである。11月に行われた米国の中間選挙の結果を受けて望み得ることは,ブッシュ政権が北朝鮮戦略の他の選択肢に対してよりオープンになることだけである。

米日韓の統一戦線の形成

 率直に言って,私がこれまで述べた概略は,米国が抱えるイラク問題や対イラン関係,そしていまなお続くアラブとイスラエルの紛争などの泥沼と比較すれば,この15年間にわたる北朝鮮の核危機に対する極めて単純な解決策である。それはブッシュ政権が残り2年間の任期で実現可能な成功にほかならない。その他の危機は,ここ数年で実行可能な解決策を見出せそうにない。

 私は,日本の安倍首相が韓国に対して果たし得る役割を楽観的に見ている。彼は就任するや否や,悪化しつつある関係を修復するために中国および韓国の首脳と会談した。そして彼の前任者である小泉首相も,金正日と直接二回会うことによって建設的な役割を果たした。しかしながら,彼とブッシュ大統領との緊密な個人的関係にもかかわらず,日本は北朝鮮と米国の間を取り持つ誠実な仲介者としての役割を果たすことができなかった。

 結局,最善の政策は米国,日本,韓国の間に統一戦線を形成することにある。そうすれば,中国はこれら三同盟国の確固たる統一政策に適応しなければならないであろう。逆に米国が避けるべきことは,東アジア情勢において意図的・非意図的に軽視され,中国が明白に突出した存在として台頭することである。

 結論として,最終的な目標は朝鮮半島の非核化でも朝鮮戦争を終結させる講和条約の締結でもなく,独立し,分断されず,再統一された国家の確立であるということを述べておきたい。それはこの民族の過去100年にわたる熱望である。そのプロセスは複雑で相当の時間を要するが,目標の達成には米国の積極的な役割が必要不可欠である。このように米国にとっての目標は,非核化の実現を超え,朝鮮半島における平和的政権の確立を超えて,非武装地帯(DMZ)の両側で南北の国民が歌っている歌“トンギル(統一)”に込められた理想の成就に焦点を当てなければならない。(文責事務局)

(2006年12月9日,東京で開催された世界平和青年連合主催の「第1回国際青年指導者フォーラム」で発表した論文を整理して掲載した。)