小学校における基本的生活習慣
形成の取り組み

札幌市学級経営研究会会長/札幌市札苗小学校教頭 渥美 秀明

 

1.はじめに

 初等教育においては,教科の勉強も大切ではあるが,子どもたちひとりひとりが学級の中で自分の存在感を感じられる雰囲気作りが重要である。つまり,子どもたちが「学校は楽しいな」「学校で勉強したいな」「先生や友達とまた会いたいな」というような気持ちになることである。その意味で学級経営が重要になってくる。

 しかし,ただ学校が楽しいだけでは不十分であり,やはり学校は勉強をするところなので,勉強ができるようになるための学級づくりや教科指導についても研究する必要がある。そこで私たちの研究団体(札幌市学級経営研究会)では,毎年そのために授業を中心とした実践研究発表会,実践交流会,実技研修会などを開いて教育技術を研鑚している。そこでは,教科の中で子どもたちがいかに主体的に参加し,いかにその子らしさ(自分らしさ)を発揮できたかを検討するとともに,そのためにどのような教育実践を行ってきたかを話し合いながら相互の交流を図っている。

 これらのことは,単に学校や担任教師が行う学級集団づくりや授業づくりだけではなく,当然保護者や地域との連携の中で進めていくことが必要である。こうした内容を総合的に考えて教育実践することが,学級経営研究会の目的となっている。

2.現代社会の子どもの実態

(1)少年犯罪

 戦後の少年犯罪の推移を見てみると,いくつかのピークが散見される。第一のピークは1951年ごろで,このころは敗戦後の貧しさから生まれた窃盗などが多かった。第二のピークは64年ごろで,日本の高度経済成長期にあたり,社会の急激な変化からの現実逃避,犯罪の低年齢化,性犯罪などが特徴であった。次の第三のピークは78年ごろで,この時代は価値観の多様化,共働き家庭の増加,校内暴力,家庭内暴力などが特徴であった。そして96年以降現在に至る時期が第四のピークと呼ばれており,キレる,普通の子の犯罪という特徴をもっている。

 現在のピークにおけるこうした少年犯罪の原因を考えてみると,「子どもの発達段階,成長段階において,何らかの発達障害があった」と考える識者もいるようだが,必ずしもそうとはいえないように思う。今の子どもたちを取り巻く環境や世の中にあって,子どもたち自身が自分自身を見失ってしまい,自分を処しきれない中から事件が発生してくるのではないかと思われる。

(2)核家族化と少子化

 現在の平均的家族構成を見てみると,三世代家族はほとんど見られない状況で,大半が親と子からなる核家族となっている。本来は祖父母と一緒に生活する中で,代々受け継がれてきた子育ての知恵などを学んできたのであったが,核家族が一般化するとそういう部分がみな捨象されてしまった。その代わり,実家の親,友人や近所の人,あるいは学校の先生から聞いたりしながら,子育てやしつけをするような時代になった。例えば,最近ではお箸や鉛筆を正しくもてない子どもが増えているが,それは家庭の中でそのようなしつけを受けてこなかった結果であろう。

 そして極端なところまでいくと親の子育て放棄・虐待となる。それは子どもを育てるべき親が「親」になりきっていない状態にあることを意味していると思う。三つ子の魂百までもといわれるが,その点からすると,家庭の教育力をいかに高めるか,そのために今日の学校教育の役割は一体何なのかをよく考えなければならないと思う。

(3)価値観の多様化

 今の教育に求められていることの一つは,「ナンバーワンよりもオンリーワン」と言われるように,一人一人の子どものよさを認めながら育てることだと思う。しかし,保護者の中には,勉強やスポーツなどの分野で「ナンバーワン」を追い求めることを子どもに願う人や,逆に「オンリーワン」を「うちの子は,○○はできなくてもいいんだ」と諦めてしまうことの言い訳として,はきちがえて理解している人もいるように見受けられる。

3.基本的生活習慣の形成

 生活習慣の基本は,自立し自己管理ができる,自分で自分のことができることだと考える。もう一つは,善いことと悪いことを判断することができ,その判断に従って行動することができる能力である。善悪の判断ができるだけではなく,勇気を持って善を行うことのできる力がより重要だ。それは小さい時から生活の中で身につけていくものである。
この判断力と行動力を身につけるためには,子どもの発達段階ごとの教育を逃してはならないと思う。例えば,小学校1年生の時に「○○はダメだよ」といって教えれば理解して比較的素直に行動を改めることができても,高学年になると単純にそういうわけにはいかなくなることがよくある。それゆえに,就学前に身につけておくべきしつけがあり,小学校の各段階で学ぶべきこともあるということだ。

 またコミュニケーション能力も重要である。自分の気持ち・考えを相手に伝えることができる,相手の話がきちんと聞ける力である。最近は友だち関係の中で,自分の気持ちを友だちにうまく伝えきれないために,友だちとの間に葛藤をおこしてしまう子どもたちが増えているように思う。
具体的な例を挙げて説明しよう。

@あいさつ:
「おはようございます」「ありがとうございます」「はい」「いいえ」「ごめんなさい」などがしっかりと言えることである。日常の生活の中では,ときには普通にそのような言葉が言えないときや相手から目をそらしてあいさつをすることがある。そういうとき,子どもたちの心の中に何か引っかかったものがあることが発見されることがある。
あいさつについていえば,先生から子どもへのあいさつ,先生同士のあいさつも見落としてはならない点である。あいさつの言葉には,そのときその状況の中のその人の気持ちが微妙に反映しているので,人の心を読むとても重要なバロメータといえる。

A寝起き:
 朝自分で起床ができる,夜更かししないなどである。これは生活のリズムをきちっと整えることである。これらは就学前からしつけておくことが大切だ。不規則な生活になると学校生活にも大きな影響を及ぼす。

B整理整頓準備:
 身の回りの整理整頓,教室清掃,学習準備,衣服の着脱など。これらは日々の積み重ねの結果とも言えるものである。例えば,小学校就学直前に身体測定があるが,そのとき衣服の着脱を見るとその家庭のしつけが一目瞭然である。きちんと着脱ができる子どもは,脱いだ服をたたんでおくこともできる。親に全部着脱をやってもらう子どももいる。さらには子どもの行動をじっと見守るだけの親もいる。こうしたことは細かいことのようであるが,学校生活に入ったときにさまざまな場面で結果として現れてくるものである。

C食・健康管理:
 うがい,手洗い,歯磨き,トイレ,バランスの取れた食事,箸の持ち方など。最近は,アレルギーにかかわる問題も敏感になっている。中にはアレルギーと偏食を混同して子どもには嫌いなものを食べさせない保護者もいるが,食物アレルギーは対処がなかなか難しい問題である。

 次に学校としての取り組みについて考えてみたい。
学校全体としての取り組みとしては,まず「あいさつ運動」「○○週間」などの設定による取り組み,全校的な学級指導などである。こうした内容を学校内だけにとどめておくのではなく,各家庭にもそうしたことがらを伝えて,学校と家庭(保護者)とが連携して進めることもより大きな効果をあげるためには重要なことである。

 学級内での取り組みとしては,まず教師と子どもたちとで約束づくりをしながら積み上げていくことがある。例えば,歯磨きなどの簡単なことはチェックカードを作って確認させていく。そして一つでも達成できたことに対してはしっかりと認めてあげること,ほめてあげることが大切だ。また教師の姿勢としては,これはかならずやるという明確な教育観・強い信念・意志をもって子どもたちにあたっていくことが大事だ。そうした教師の姿勢・気持ちが見えない形で子どもたちの心に伝わっていくからであり,それこそ感化力といえるものである。

4.最後に

 一般的に学校教育における危機管理といえば,災害や事故などに対応することが最初に挙げられると思う。最近の社会ではそうしたこともきわめて重要になってきているが,それだけにとどまらず,日常生活の中における子どもたちのサインを読み取る能力が学校教育における危機管理をうまくやっていけるかどうかの基礎になると信じる。例えば,子どもたちの中には,親離れしていない子,学校にいけない子,来れない子など,実にさまざまな子どもたちがいる。そのような子どもたちに対して,子どもたちの発するサインや情報を見逃さずにきちんと対応していくことが大切だろうと思う。さらにはそのような情報を学内だけにとどめておいて対処するのではなく,今の時代は保護者や地域の人たちに対しても適切に情報発信・情報公開をして協同して取り組んでいくことも大切な側面であろう。(2005年7月11日「北海道人格教育懇話会」にて発表)