第2分科会:環境変化と人類の未来

中央大学客員研究員 長谷山 崇彦

 

 報告は、論文「貧困は公害の最悪形態」(Poverty is the Worst Form of Pollution)の要約により行われた。同論文は、まず、国際機関と政府間関係機関を通じて人類が実施してきた一連の地球環境保全計画と行動計画の歴史的経過を年表で示し、国連報告による「持続可能な発展」の定義、「将来の世代がその要求を満たす能力を損なうことなく現在の世代の要求を満たすような開発」を容認する。報告論文は、地球環境問題の内容を、多くの関連データと分析により、地域別に体系的に提示する。

 その上で、人口増大が貧困と環境悪化、そして経済全体に及ぼす悪影響を、貧困と環境悪化の悪循環として指摘し、環境悪化の撲滅には貧困の撲滅が不可欠であることを強調する。

 しかし私の考えでは、貧困撲滅には一層の経済発展が必要であり、一層の経済発展には、一層のエネルギー消費が必要である。しかし現在、世界のエネルギーの大部分は環境にマイナスの化石燃料であり、この経済発展と環境悪化、即ちエコノミーとエコロジーとの宿命的ジレンマの調和と解決策を問題提起する。

 報告書は、先進国・途上国間の総所得額と一人当たり所得額も格差が拡大傾向にあることを指摘し、懸念する。全世界の平均値で見る限りこれは正しい。しかし私は、先進国・先発国の直接投資を梃子とした先進国と途上国との産業構造の相互依存的連環関係(構造的連鎖の発展メカニズム)により高度成長と所得水準向上を達成した東アジア・ASEAN諸国の成功物語の事例を示し、現在の国際的所得水準の格差は、南北問題の責任よりも、途上国自身の開発戦略と途上国側の政治社会体制及び所得分配の不平等化によることを指摘し、閉鎖的経済もしくは中央計画経済体制の途上国が、経済の自由開放体制と市場経済化を進めることが、国際的所得格差改善の鍵であることを主張し、報告者も同意した。

 報告書は、環境問題を次の範疇に分類し、地域別にその実態を示す。即ち、土壌劣化、森林破壊、生物の多様性、淡水と水質衛生度、沿岸と海洋、都市化と大気汚染、気候変化と自然災害である。私は報告書の分類を評価し、国連機関の共著年報書の『世界の資源』(World Resources)も、地球環境問題を、上記の自然資源問題との関連で分析していること。また先進工業国、貧困国、急進工業国、中央ヨーロッパ(旧ソ連、東欧)に分類して考察していることを紹介した。

 私は、環境問題と自然資源問題は表裏一体の密接な関係を持ち、そのために国連による世界の環境白書も『世界の資源』という書名であり、自然資源は鉱物や動植物のようなハードの資源と、生物の多様性や大気のようなソフトの資源とから構成されるが、国連報告では、エネルギー資源を「環境と資源」問題に最も重大な問題をもつものとして分析しており、報告書もエネルギー資源を加える必要性を指摘する。私は更に、環境保全問題には、自然資源に加えて「人的資源」を加える必要性を主張する。何故ならば、環境破壊と資源収奪は人類によるもので、環境と資源保全も人類の知恵に依存するからである。そのためには、人類を、この地球を守り人類社会の持続可能な発展に貢献するような人的資源に養成すべきで、そのためには高度技術だけでなく健全な道徳心の教育・訓練をすることが重要であると思う。

 報告者が、偶々、メコン河環境・資源研究所長であることから、私は次の意見を提示した。即ち、21世紀には世界の水資源不足が予測されている。中国と世界の穀倉国米国の農業用水不足も予測されている。日本は毎年、自国産穀物の約3倍以上の穀物を主に米国から輸入し、中国からも多量の農産物を輸入している。もし水不足で、米国と中国が農産物を従来通りに輸出できなくなれば、日本の食糧安全保障は崩壊する。また中国には日本を含む多くの国が合弁企業で直接投資を拡大しているが、工業用水不足で中国の工業生産が停滞すれば、国際経済は失速する。もしメコン河の膨大な未開発水資源を、環境との調和で開発すれば、メコン河流域地域は、アジアの新興穀倉地帯と新興工業地帯になる潜在力をもつと推計され、中国と米国の水不足の影響を、不十分でもかなり補填可能と思われるという見解である。報告者は私の論を前向きに評価したが、問題は開発資金の調達で、大型の国際協力が必須であることが認識された。
(2002年11月16日発表)