テロリズムとの闘いにおけるイスラム会議機構(OIC)の役割

イスラム会議機構・国連常任大使 モクフタール・ラマニ

 

1.「イスラム会議機構」とは

 イスラム会議機構(Organization of the Islamic Conference)について、その特質などいくつか述べてみたい。OICはその名称が連想させるところとは異なり、宗教組織あるいは非政府組織ではない。OICは57の加盟国および3つのオブザーバー国で構成される政府間組織である。そして世界の人口の約4分の1を包含し、世界のすべての地理的地域にまたがる組織である。OICのすべての加盟国は、国連の加盟国でもある。OICと国連は相互にオブザーバー国を持っている。このため、両機関およびそれぞれの構成機関は、政治的、社会的、経済的、科学的、人道的な側面での協力や、相互が認定した紛争地域における平和維持活動や平和構築活動、テロリズムとの闘いなどの分野で協力を行っている。

 OICはあらゆる形態のテロリズムに一貫して反対している。実際、いくつかのOIC加盟国が過去数年にわたって様々なタイプのテロリズムの犠牲となっており、我々はテロリズムの根本原因を適切に認識し除去しない限り、前途には危険が待ち受けていることをより強く認識しつつある。2001年9月11日の悲劇的事件が起こるかなり以前のことであるが、OICは1987年3月にスイスのジュネーヴにおいてIPO(International Progress Organization)や国連を始めとする多数の政府間組織および非政府組織とともに、テロリズムを問題とする会議を共同で開催した。この会議は「テロリズムに関するジュネーヴ宣言」として結実し、特にテロリズムや国家解放活動およびレジスタンス活動に関する新たな概念的枠組みを提示した。それ以来、OICはテロリズムに反対する立場を堅持し、国連やその他の関係地域機関、国際機関などと協力してテロリズムと闘う姿勢を示してきた。

2.テロに対するOICの姿勢

 この立場に沿って、OICは1994年12月、「テロリズムとの闘いに関する行動規範」を採択した。また5年後の1999年7月には包括的な「国際的テロリズムとの闘いに関する協定」を採択した。この協定は、テロリズムに対する政策形成や予防手段、対抗手段を講じる上での基礎的な枠組みを規定した。

 これに関連する動きとして、1998年9月21日には第8回イスラム首脳会議の議長が第53回国連総会で演説し、「文明間の対話」の概念を紹介した。これが2001年を「国連文明間の対話年」とする国連総会の決議へとつながった。その年、OICのイニシアチブのもと、国連総会は世界のあらゆる地域の代表との協議に基づいて「文明間の対話のためのグローバル・アジェンダ」を採択する準備をしていたのだが、そのような時に誰もが驚愕した9月11日の悲劇的なテロ事件が発生したのである。

 そのわずか3カ月前の2001年6月、マリのバマコで開催された第28回イスラム外相会議でも、テロリズム問題が議題とされていた。討議の中では、同会議が以前から提案していた事項について改めて話し合いが行われた。すなわち、国連の後援のもとで国際会議を開催してテロ問題に取り組み、そこにおいて「テロリズム」とは何かを定義し、また国家の解放を目的とする闘いとの区別を行うという提案である。

 同会議は「OIC加盟国が『国際的テロリズムとの闘いに関する協定』を遵守し、国家的テロリズムを含むあらゆる形態のテロリズムに連携して闘うことを再確認した」のである。同会議はあらゆるテロ行為に対する非難の意を表明したが、その中には「ハイジャックや民間航空機の安全を妨げる違法行為による犯罪」も含まれていた。

 また同会議に参加した各加盟国に対しては、「ハイジャックに対する罰則と民間航空機の安全を保証する国際的合意を迅速に批准する」よう要請した。これは先ほど述べたように、米国で9月11日のテロ事件が発生する約3カ月前のことである。

3.9.11以降の取り組み

 9月11日の悲劇的事件はOICに重大な懸念をもたらした。OICの事務総長および各加盟国の元首たちは非難声明を発表するという形で直ちにこれに反応した。またこの事態に対処するため、2001年10月にカタールのドーハ(現在のOIC首脳会議議長国)で特別外相会議を開催した。会議の最終共同声明では、OICがテロリズムを非難するという不変の立場を強調し、テロリズムに対するイスラム諸国の総合的な立場を再確認している。またテロリズムとは何かを定義し、テロリズムと闘うための行動計画を立案する国際会議を開催するよう再度呼びかけた。

 これに続いて、OIC加盟国の外相らによる年次調整会議(ACM)が開かれた。通常、この会議は国連総会の初めにニューヨークの国連本部で開かれる。そして国連総会の議題の中でOIC加盟国に関係する問題について、OICとしての見解を調整し集約する。事態の重大さゆえ、2001年11月15日に開かれたACMでは国際的なテロリズム問題が最優先で話し合われた。ACMは9月11日の事件の犯人を信頼できる捜査に基づいて突きとめ、法に照らして処断する必要性を再確認した。

 さらにOIC加盟各国は、国連の後援のもと、「国際的テロリズムとの闘いに関する協定」に沿ってテロリズムに関する国際的な取り組みに協力することを再確認した。具体的には、恣意的な選択や二重基準を排しつつあらゆる形態のテロリズムを定義することであり、テロリズムの根本原因を明らかにしてそれを根絶し、国際的な安全と安定を確保することである。またテロリズムと外国の占領に対する合法的な闘争を明確に区別することである。これらの目標を達成するため、ACMはOICが提案した国際会議を国連の後援によって一刻も早く開催する必要性を再確認した。

 さらにACMは、イスラム諸国のすべての人々をあらゆる形態の外国人嫌悪や偏見から守ることを目的とした国連やその他の国々の取り組みに感謝の意を表わした。またテロリズムと闘う目的で予防的な措置が講じられた場合に罪のない人々が危害を加えられることのないよう、すべての国家および国際社会が同様の取り組みを行うことを求めた。

 今年の2月12日・13日、現在の世界的な政治情勢を評価し、文明間の理解と調和を促進する目的で、OICと欧州連合(EU)の外相レベルの共同フォーラムがトルコのイスタンブールで開催された。外相らは特に、テロリズムがいかなる理由によっても正当化されないことを共同で確認した。外相らは国連憲章及び国連決議に符合する国連の枠組みの中で、あらゆる形態のテロリズムと闘う共同責任を確認した。同時に、外相らは文化的偏見や政治的・経済的不公正から生じる諸問題を明らかにし、その解決を促して普遍的な平和と幸福、安定に貢献する決意を表明した。

 最後に、OICは今年4月1日〜3日、マレーシアのクアラルンプールでイスラム外相会議(ICFM)のテロリズムに関する特別会議を開催した。各加盟国は、不当な攻撃を拒否し、平和と寛容、尊敬心を重んじ、罪のない人々の殺害を禁ずるというイスラムの原理と真の教えを遵守することを誓った。またイスラム教およびイスラム教徒をテロリズムと結び付けようとするいかなる試みをも拒絶し、テロリズムがいかなる宗教、文明、国籍とも関係がないことを宣言した。同会議は13の加盟国で構成する「国際的テロリズムに関する閣僚委員会」を設置し、国家的および国際的なテロリズム問題に取り組むための具体的方策について提言をまとめるよう定めた。

4.テロの根本解決に向けた努力

 以上はOICが国際的テロリズムと闘うために様々なレベルで取り組んできた活動の概要である。OIC加盟国は国連・安全保障理事会の反テロリズム委員会とも全面的に協力している。反テロリズム委員会が設置された目的は、テロリズムとの闘いに関する安全保障理事会の決議を国連加盟各国が国家レベルにおいて確実に実行に移すよう促すことである。各国はテロリズムへの資金供与や直接的・間接的な支援を断ち、テロリズムに関わる組織や個人、彼らの動きに関して情報交換を行う。また反テロリズム委員会は3つの異なるレベル、すなわち国家機関、地域機関、国際機関のレベルでこの問題に取り組み、それらすべてについて安全保障理事会に報告することになっている。

 ここまで述べてきたことを要約すると、OICはあらゆる形態のテロリズムに反対し、私が説明した様々な行動を通じて加盟国におけるテロリズムとの闘いを積極的に支援している。OICはこれらの取り組みの中で国連や他の国際機関とも協力している。またテロリズムについて定義し、様々な状況でテロ行為と闘いそれを未然に防ぐため、国連の後援により国際会議を開催するよう呼びかけている。テロリズムはいかなる方法によっても正当化したり、擁護したりすることはできない。その一方で、OICはテロリズムの根本原因を明らかにし、それと取り組むべきであると主張している。テロリズムの根本原因を明らかにしてその問題を除去しなければ、人々の不満や失望を生み出す土壌はそのまま残され、やがて取り返しのつかない行動へとつながる。そのような事態は避けられるものであり、避けられなければならないのである。(2002年5月20日〜23日、米国・ワシントンDCで開催された「国際指導者会議」において発表された論文である。)