韓国における青少年のための「心の教育」

韓国・ミョンジ大学客員教授 キム・ノマ

 

1.青少年のための「心の教育」の必要性

 近年、韓国社会において、顕著に増加の傾向を示している青少年の校内暴力、薬物汚染、自殺等の事件をはじめ、韓国の歌手ソ・テジの「教室イデア」という歌などは、彼らの心や精神がいかに病んでいるか、荒廃しつつあるのかを、端的に示しいている例と言うことができよう。ソ・テジの「教室イデア」という歌は、韓国社会においてある一時期一世を風靡し、多くの人々の共感を得たのであった。そこで、その内容を参考に見てみよう。
 
いいよ、もういいよ、こんな教えはもういい
これでたくさん、もうたくさんだ
毎朝7時30分までに僕らをちっぽけな教室に追い込んで
全国900万の子ども達の頭の中に、みんな同じことだけ詰め込んで
行き詰まった、ぎゅっと行き詰まった、四方全てが行き詰まった棺
そしてがぶりと僕たちを飲み込んだ、この真っ黒い教室だけで
僕の若さを送るなんで、超ムカツク
もう少し高価にしてあげよう、君の横に座っているあの子よりも
一つずつ頭を踏んで上っていけ、もう少しよくできる子になれる
どうして変わらないで、イライラ青春をさまようのか
どうして変わらないで、他人が変わるのを望むだけなのか
小学校から中学校へ入り、高校を通って僕らを包装センターに入れ
上辺がいい子を作るため、僕らを大学という包装紙でかっこよくくるんでしまう
今考えてみろ、「大学」
ほんとの顔は隠したままで、勤勉なフリをして生きる時代が過ぎてしまったのは
ちょっと素直になってみろ、君にはわかる(注1)

 この歌は、韓国の学校が直面する現実を、意図的に大学進学を放棄した一人の歌手の口を通して、うまく描き出している。歌詞の内容に歌われた教育上の問題点は、伝統的社会において教育が制度化されていく中で、またそれが国家官僚の選抜の手段と化し、更にはエリート教育の一環として変質した時点から、表面化し始めたと見ることができる。

 警察庁が発表した報告によると、1997年1月から6月までの6カ月間に、校内暴力と関連して警察に検挙された青少年の数が25000名を超えた。彼らの大半は、情緒が薄く、思考がゆがんでおり、絶望感に陥っているという。従って国の指導者たちは、彼らの心を癒し、更には極端な自殺行動を自制することのできる力を育ててあげるべき社会的義務を負っていると思う。それ以上に深刻なことは、不良化した小学生や女子学生の数が日を追って増加していることであり、このような現実は事態の深刻さを物語っている。今日の学校教育が大学入試を頂点とする入試偏重となっているために、小・中・高校生たちはどこにいっても勉強という囲いの中から抜け出ることができないという現実がある。それゆえ、青少年たちのストレスは、言葉で表現することが到底できないほどである。時代が要求する社会的制度の矛盾のために、青少年たちは自暴自棄に陥っているといえる。

 以前の韓国では、大家族制度が一般的で、祖父母の世代などによって幼い頃から正しい礼節というものを学ぶことができた。さらに伝統的に見ると、家庭が教育の一端を担う重要な「場」であったのである。しかし今日に至り、核家族化した若い父母たちにおいては、心の教育の重要性を認識してはいるものの、共稼ぎ、職場や社会的諸活動等のためにかなり忙しいという環境条件によって、時間と心を十分子どもたちに注ぐことができないでいる。その結果、子どもたちの心の教育に対して不十分な結果となってしまった。また、大部分の児童・生徒たちは、学校が終わったとしてもその後に待ち構えている多くの課外学習(塾など)に、多くの時間を費やしているために、親子の間の接触時間が十分に取れないでいる。

 このように教育の現実が抱える入試中心の学校教育の限界と問題点を克服するとともに、学校の機能だけでは解決が難しい問題を、自発的な小集団活動を通してどのように解決してゆくべきか。青少年たちが現実の社会生活の中で生きていくのに必要な知恵を学び、正しく考えることができ、更にはそれを行動に移すことのできる力を育てるのは、まさに心の教育によらざるを得ず、今こそそれが要請されているのである。

2.青少年に対する心の教育の現況

 韓国における「心の教育」の大部分は、学校の教育課程を通してなされているのが現状である。米国や日本の場合は、青少年の精神教育のための世界的な組織であるボーイスカウトなどの民間の団体が全国各地にあり、それらが教育(社会教育)を担っている。各地域においてそこの大人たちが、自発的に研究・教育を進め、地域の青少年たちを指導している。しかし、韓国では約80%が学校を中心として組織され、教師たちによって指導されている。

 このような学校を中心とする青少年の教育は、学校教育課程(教育内容、時間配分など)に左右されることになる。すなわち、学校教育の目的(法律に規定)に一律に従わなければならないために、それぞれの地域の特徴や伝統が排除されてしまいかねない。心の教育は、子どもたちが面白みを感じる中から、自発的に興味が誘発されていくように教育することによって、子どもたちの創意性が現われるとともにその効果が倍増するのである。

 現在、韓国で学校以外において心の教育(精神修練)を実施している青少年団体としては、YMCA、YWCA、RCY、ボーイスカウト、ガールスカウト、4Hクラブ、花郎隊などがある。この中で各市・道の教育委員会に登録されている青少年団体が29団体あり、それらは学校教育課程である特別活動の時間内で活動が展開されている。青少年連合会に登録された団体は、各地域別の小団体を含めると約170団体にのぼる(2002年3月現在)。

 各学校において活動を実施している青少年団体は、学校の事情、活動人数(児童・生徒数)の制限、指導教師の不足などによって、29団体中、3〜5団体のみが実際には活動しているに過ぎない。

 また、青少年のための相談室の運営も、ほとんど学校を中心として進められている。しかし、生徒たちの入試準備、学校の教師の業務加重による時間の不足、専門指導者の不足などによって、その実態はかなり劣悪であり、その効果も期待できるほどではない。それゆえ、専門の相談指導者の養成、地域社会の参加・協力が切実となっている。

 青少年たちの心のケアーの指導範囲は、進路、異性、学業、健康、家庭、対人関係など、かなり広い。このような心のケアーは、学校の力だけでは限界があると思われる。学校、地域社会、政府などが一致してこのような教育活動に参与し、その時代にマッチした教育カリキュラムを研究開発していかなければ、青少年の心の教育はその実を得ることはできないであろう。

 韓国では今後、大都市、中小都市、農漁村などで、その地域の特性に適した青少年団体が組織され、地域の特性に応じた心の教育の教材が開発されなければならない。その上で、青少年たちの指導は、各地域を中心として教育が持続的に進められることになる。そのことによって郷土を愛する心を育てることを基盤とすることができ、その結果、青少年の犯罪、無条件に一流校を目指す進学熱、無条件の大都市志向などを予防することが可能となる。更には、子どもたちの自我意識を目覚めさせるのに、一助となることであろう。このようにしながら、自己啓発をすることができだけでなく、地域社会の発展に大きく寄与することもできる。それによって、個人はもちろんのこと、社会、国家にとっても大きな財産となることが可能なのである。

3.青少年に対する「心の教育」の方法

 心の教育においては、学生たちの自発的な行動変化を促すために、さまざまな経験や条件を提供することが重要である。したがって、強制的にやらせるとか、圧力によって心の変化を誘導するという努力は、「心の教育」とは一致しない。心を肯定的な(善の)方向に変化させていくための教育的な活動に関しては、次の諸点に留意する必要がある。

1)心の変化に対する最終的なカギは、子どもたち自身にある。
 本人自身が最後まで拒否するならば、いかなる行動の変化も、教育もなされることは不可能である。本人の同意があるとき、または積極的に変わっていこうという動機があるとき、心の教育が可能となる。したがって心の教育は、子どもたちの動機がどの程度誘発されているかに、大きくかかっているといえる。ここにおいて、心の教育がしっかりとした人道主義哲学に根拠を置いたものでなければならないことが明らかになる。

2)心の教育は、科学的理論に根拠を置くとき発展することができる。
学校教育における心の教育は、子どもたちが発達させるべき心の特徴を学ぶことができるように支援するために、体系的かつ科学的方法と手続きによってなされなければならない。これは心の教育が、行動科学に基礎をおく必要性を示している。

3)心の教育は、心と体との均衡のとれた発達を促進するものでなければならない。
心の教育は、思考、態度、価値などの認知変化、愛憎、好悪などの情緒的変化、そしてそのような認知と情緒の実際的表現である心と体の行動変化が、肯定的(善の)方向に向けられなければならない。

4)心の教育は、子どもたち自身が自分の目標をはっきりと認識するときに、その効果は更に高まる。
 心の教育の目標をレベル別に分け、容易に到達することのできる目標から始めて、最も高い目標を提示することによって、一段階ずつ目標達成をしながら次の段階へと容易に移行できるように導くことが、効果的である。子どもたちが目標をはっきりと認識しそれを受け入れるとき、心の教育は成功を収めることができるのである。

5)心の教育は、子どもたちが心の変化の必要性を感じるところから出発するときに、肯定的な結果を導き出すことが可能となる。
書籍や理論において望ましいと提示した方法に頼り、子どもたちを育ててあげることがよいと考えて、心の教育を実施するならば、それは子どもたち自身の必要を無視するものであり、必ずや失敗する可能性が高い。したがって、心の教育は、何よりも子どもたちの欲求ないしは必要に応じて進められなければならない。

4.青少年のための「心の教育」の一例

(1)ゲーム名:青少年の組織理解と協力ゲーム

1) 目的
 青少年の交流活性化のためのゲームを通して、次のような機能を発揮することができる。
@組織の協力と意思疎通の技術を学ぶことができる。
A問題を広い視野で正しく認識する能力を養う。
B集団活動を通した集団的意思決定能力を養う。
C身の周りのことの管理、情報管理、文書管理等の要領を習得する。
D共通の目標達成の経験を通して、目標達成の重要性を認識するようにさせる。
E積極的で創造的な思考力を養うことができる。

2)進行方法
@ 任務
 皆さんのチームは、4つの中のひとつである。このゲームは、4チームが協同し一つの大きな平面的な+字中の一部分を作ることである。したがって、単独では作業が難しくなっている。同じ目的をもった4チームが、よく協力することによって初めて所期の目的を達成することができる。
Aゲームの規則
・あなたは指定された場所から離脱してはいけない。
・分配された部分(片)は全体としてみると、重複したり不足したりはしない。
・与えられた文書用紙によってのみ、他のチームと意思を伝達することができる。
・全ての文書受け取りは、必ず中央統制官を通じてしなければならない。
・各チームは、1名の固定された連絡担当者を任命し、中央統制所において文書やその他の物品の伝達は連絡担当者がしなければならない。
・各チームは中央統制官の指示に必ず従わなければならない。
・各チームの部分調整が終われば、中央統制官に報告しその指示によって最終調整場所に移し、最終的な「+」字となる4チームがいっしょに完成させなければならない。
・機密保全のために作業時はできる限り低い声で静かに行うこと。
・文書のチェック欄に 印がないときには、内容の伝達に異常が発生することもある。
・各チームは、最小限3つのかけら(片)を持っていなければならない。
・各チーム間の距離は50m以上と仮定する。

3)ゲームの用具
皆さんのチームが利用することのできる用具は、下記の通り。
@+字を分解した部分品の一片
A意思伝達のための業務協力用紙(他のチームとの連絡用)
Bゲームの指示書
C16折して切ったわら半紙
Dはさみ
Eクリップ
F30cmのものさし

4)結果
組織の協力と意思疎通の技術になれることができ、問題点を広い視野で正しく認識することのできる能力を養うことができる。また集団活動を通した集団意思決定能力を養うことができ、ものごとの管理、情報管理、文書管理の要領などを習得することができるので、共同の目標達成の経験を通じた目標達成の重要性を認識させる。

(2)ゲーム名:盲者と亞者

1) 進行方法
@研修生を2名横隊に集合させ、人間関係の改善のために学校において仲間でなかった人と仲間になるようにさせる。
Aめかくし巾を2人一組に一つずつ分配する。
B前の列にいるペアが盲者となるように、彼らをめかくしする。
C後ろの列にいるペアが亞者の役割とするように、一切言葉を発しないようにする。
D出発の準備ができれば、「我々の誓い」の宣誓を全員がなした後、指導者は研修生に対して次のような注意事項を知らせる。
・盲者はめかくしをほどいてはいけない。
・亞者は言葉を発してはならず、盲者を危険なところに案内してはいけない。
・指導者よりも先に進んではいけない。
E目的地に到着した後、「我々の誓い」をなして指導者は彼らを抱いてやる。
F二つの役割を全て果たした後、感じたことを記述する。
G記述したことを中心として発表する。

2)我々の誓い
一、愛することのできる私、信じることのできる私、そして先立って導くことのできる私を立派に育てます。
一、私の発見、私の啓発、私の実現によって、私の分限、私の役割に最善を尽くします。
一、清く明るい良心によって、常に誠実な友だちとなるように互いに助け合い、熱心に生活します。

3)結果
@ともに生きていくための知恵を学ぶ。
A人間関係の改善をなすことができる。
B障害者の立場を理解することができる。
Cすべてのことに感謝する心をもつようになる。

(3)ゲーム名:未完成文章完成ゲーム

 未完成の文章を完成させることによって、自分自身が重要と考えている価値観が何なのかを知り、価値観の発達のためのきっかけとする。文章を完成させた後、互いにその過程を振り返りながら意見を発表する。

「今から皆さんに簡単な作文をお願いします。次の単語で始まる文章を完成させてみてください。必ず自分の率直な心をありのまま述べながら、一つ残らず文章を作ってみてください。」
@私がもう少し若かったならば
A私は友だちが
B他の人たちは私を
C私の母は
D私にとって最もよかったことは
E私が最も心配していることは
F私が最も好きな人は
G私が最も嫌いな人は
H私の父は
I私が最もほしいものは
J私のよい点(長所)は
K私の悪い点(短所)は
L私を最も悲しませることは
M私を最も怒らせることは
N私の願いがそのまま実現されるとすれば

私の第一の夢は
私の第二の夢は
私の第三の夢は

5.結論

 ここまで韓国における青少年たちの心の教育の必要性、その現状、方法及び実際などについて見てきた。「青少年の心の教育の必要性」の節において言及したように、21世紀における教育の成否如何は、いかに多くの知識をいかに多くの青少年によく教えることができるかという観点に立った教育方法や教育技術にかかっているのではなく、生きることの意味を失いつつある青少年たちに自分の価値を発見させることによって、自己実現がうまくいくように援助することにかかっているということができる。自己実現をなすためには、家庭、学校、社会において、心の教育がしっかりと実現されることが何よりも大切なことである。

 したがって、家庭、学校、社会における心の教育を以下に提示しながら、結論を導いていこう。

(1)家庭における心の教育
 家庭は人が生きる上での基盤であるとともに、心の成長を促すのに大きな影響を与える基礎的な教育の場であり、個別指導の教育の場、すなわち構成員による無限責任の教育の場でもある。家庭における教育は、非形式化された無意識的な教育である。子どもの教育を担当するのは、家庭の大人たちである。その大人たちの行動の一つ一つが、ことばそれ自体、品性、人格、それらすべてが子どもたちに与える影響は、意図的な学校教育よりもはるかに大きいといえる。それゆえ、保護者たちは正しい教育観を持つ必要がある。ゆがんだ教育観は、子どもたちに対して回復の困難な心の傷を与えてしまうためである。

 家庭の大人たちは、子どもたちを一つの独立した人格体として尊重しながら、対話をよくし、家庭において自分自らがしなければならないことを率先垂範して見せることにより、責任、義務、協同、奉仕など共同体意識が、自然と体に身につくように配慮し、基本的な礼節が生活の中に実現するように援助していかなければならない。よい習慣と基本的な礼節の習得指導は、ほとんど家庭内においてなされると言っても過言ではない。

 「三つ子の魂、百までも」ということわざもある。これは幼いときに形成された価値観と生活習慣は、生涯にわたって生きつづけていくという意味である。幼いときから道徳的な品性と正しい生活習慣をもてるように指導することは、将来成長するであろう若い世代の人たちに対して、人間らしく、幸福な人生を送ることができるようにしてゆくべき大人たちの責任の中でも、最も重要なことの一つといえる。

 したがって、家庭における大人たちは、成長していく子どもたちのための必要な養育と保護の責任にのみ終わることなく、子どもたちの重要な教育的な機能のために、家庭の安定と正しい生活習慣の形成、そして礼儀作法を大人たちの模範と激励によって教えていく必要がある。それと併せて、将来の生涯設計に向けた重要な指標を植え付ける役割を遂行しなければならないであろう。

(2)学校における心の教育
 学校における心の教育の実際において、考慮しなければならないことがいくつかある。さまざまな制度や心の教育のためのプログラム開発に始まって、学校環境を整備するとか、教育方法を刷新することに至るまで、教育実践の提案の全般にわたり再検討する必要がある。その中で心を育てるための条件と方法について、いくつか提示しようと思う。

1)教師と生徒・学生の間の望ましい関係の形成を通してのみ、真の教育がなされる。心の教育のために求められる教師と生徒・学生の関係は、まず信頼感が造成され、表面的な円満さや優しい関係というよりも、心の奥底にある思いや感情を自然に表出しながらも対話できる関係が形成されなければならない。更に一人の人間として尊重し、今あるそのままの子どもの姿を認め受け入れるような関係が大切である。

2)教育条件と現状に合わせてプログラムを考慮・作成することは可能であるが、まず第一に競争一辺倒の教育を止揚しなければならない。さらに個人志向よりも集団的協同に力点をおく教育の方向が設定されなければならず、また個人的な達成感よりも共同的な達成感に対してより多くの報奨を与えるようなしくみが整備されなければならない。
学校の現場において、心の教育を扱わなければならない重点的な領域と徳目を以下に示す。

@基本的生活習慣(規則的生活、整理整頓、清潔、衛生、ものの節約)
A自我の確立(正直、勤勉、誠実、自主)
B孝道と敬愛(基本的な礼節、孝道、敬愛)
C共同体意識(秩序、協同、順法、他人尊重、責任、奉仕、正義感)

上記のような内容を基礎として、学校のクラス別に徳性教育の重点領域に応じて指導の比率を変えることによって、指導上の効率性を期しなければならない。基本的生活習慣は、幼稚園から小学校を経て指導し、共同体意識、平和愛好精神、環境倫理、世界市民意識などのようなことは、中等学校においてより重点的に指導する必要がある。

(3)社会における心の教育
 心の教育は、決して家庭と学校でのみなされるのではない。あらゆる教育がそうであるように、社会は一つの大きな学びの場である。社会がそれを意図しようとしまいとにかかわらず、社会において生きる全ての人は、社会から多くのことを、本人の自覚にかかわらず影響を受けて学んでいく。特に青少年が社会において受ける影響は、大人よりも大きくしかも早い。このような意味から見るときに、社会の非人間的、反人間的な環境要素が少なくなるように、大人たちは心血を注がなければならない。

 特に社会の各分野の指導者たちは、率先垂範して模範を示していかなければならない。新聞、放送、コンピュータ・プログラムなど多様な形態の視覚的、聴覚的、ダイナミックな媒体が、青少年の適性の涵養に途方もなく大きな悪影響を及ぼしていることを勘案すれば、あらゆる非人間的な姿を示しているさまざまな媒体を、最大限減らしていく努力を一緒になって傾けなければならない。また青少年たちの無分別な欲求を巧妙に利用して、金儲けだけに執着する社会の性向を政策的次元において抑制し、青少年たちが心おきなく夢を膨らませることができるように、そのような性向を望ましい方向に改善し変化させていかなければなるまい。

 そして全般的な社会制度においても、青少年の徳性涵養に否定的な影響を与える要素、すなわち学校の成績や学閥によってのみ人の能力を判別する制度、能力がないのに背景のよい縁故のみあれば出世することのできる風土などを打破していかなければならない。それによって全般的な社会制度が、青少年に要領のよさと極端な利己心を呼び起こさせず、彼らの心性の涵養に肯定的な影響を与えられるような風土を造成しなければならない。各種の社会教育機関において、提供する多様な形態の教育活動が、青少年たちに途方もなく大きな影響を及ぼすことを勘案すれば、心性に基礎をおいた人間のあり方を教え学ぶという原則に立って、あらゆる教育が計画され実施されなければならない。
(2002年5月20日〜23日、米国・ワシントンDCにおいて開催された「国際指導者会議」で発表された論文の要約である。)

注1:
Copyright(c) Mose A&D Akane 1997より引用