メルコスールの再構築とパラグアイの役割

パラグアイ上院議員 ラウル・アジャラ

 

1.メルコスールの再構築

 パラグアイは、近年、新しい経済モデルを採用し、これを強化し維持しようとしている。地球上で最も開発され発展した地域の一つであるメルコスールという自由貿易地域において、パラグアイは確固たる位置を占めているが、その中で更なる発展を遂げられるよう努力している。

 今年、メルコスールは創立十周年目を迎えたが、これを機会に日本を初めとする東アジア諸国とメルコスール地域との貿易などの交流がさらに活発化することを願うものである。

 数年前、ブラジルから始まった経済危機は、なんと140%もの通貨下落を経験したが、その後アルゼンチンの経済危機が襲った。このような実情を踏まえ、私どもはメルコスールの基盤を再構築していくことを余儀なくされている。このため、昨年末(2001年12月末)ウルグアイ・モンテビデオにおいて、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルの各国大統領および国会議員が集まり、そうした内容について討議しようとした。ところが、ちょうどそのときアルゼンチンの経済危機が深刻化して同国の大統領辞任などの事態が起こり、同国の新大統領は参加できなかった。その会議では、メルコスールの再構築などの議題について話し合った。メルコスールには、準加盟国としてチリとボリビアがあるが、それらの国も含めた形で各国の関係強化を検討したのである。

 こうした域内各国の関係強化は、現在非常に重要な課題となっている。なぜなら、NAFTA(北米自由貿易協定)が強力に発展しており、それに対して南米メルコスール諸国が個別に対応していたのでは、立ち向かっていけないという現実がある。メルコスールの中でも、ブラジルはより大きな役割を果たしているが、アルゼンチンの経済危機に対してブラジルの外相は「全面的支援をする」と表明した。また、国際銀行団に呼びかけてこの危機を解決したいと構えている。

 現在のアルゼンチンの状況に対して、私たちは危機的な状況の中からもかえってチャンスが生まれると考えている。この国は膨大な対外債務を抱え、国家予算も大きな赤字を抱えている。しかし最近、国家調整計画が発足し解決に向かっていくのではないかと思う。なぜならアルゼンチンには大きな経済的潜在力があると思われるからである。豊かな原料、天然資源に恵まれた国であるので、解決は時間の問題であろう。ブラジルも経済危機から脱し、経済を再浮上させることができたように、アルゼンチンもまた解決ができるだろう。

2.パラグアイの対外戦略

(1)国内諸改革の推進
 パラグアイでは、非常に大きな経済改革を進めており、大いなる挑戦を試みようとしている。わが国の経済成長率は、ここ10年増大する雇用の要求にこたえるには不足な状況ではあるが、こうした問題も解決してゆきたい。三角貿易に支えられた成長の形態、すなわち、付加価値のわずかなあるいは全くない日用品の輸出を削減してゆきたいと考えている。今まで取ってきたこうした経済体制は、常に隣の国々と紛争を巻き起こしてきた上、わが国のイメージを高めるのに何の貢献もしなかった。そしてよい改善方法がなく、行き詰まってしまった。そこで今後、投資・雇用の増大を図るとともに、わが国の国民の福利厚生を向上させるためには、更なる変革が必要だと考えている。

 こうした状況から脱して、急激的かつ持続的な成長に向かって、パラグアイ政府は改革を推進している。これに対しては、社会の各界各層から広い支持を得ている。パラグアイの歴史において、このような動きは初めてのことであり、主な政党、議会、行政機関が一致してこうした経済の再活性化を進めながら、貧困の軽減を目指している。さらに、このことによって政治の安定性も獲得したいと考えている。それにはジャイカ(JICA:国際協力事業団)の技術者等を通しての日本の支援が重要な要素となっている。

 パラグアイの戦略としては、適切な形で競争力のある工業を定着させ、国際マーケットに通用する製品を作っていくことが挙げられる。特に、農牧部門の輸出の形態を変えていくことが必要ではないかと思う。工業化を強く推進し、付加価値の高い製品を作り、わが国の農業製品開発、また人材の育成などに尽くしてゆきたい。またさらに生産を優遇していくことの必要性を痛感している。

 パラグアイの主な輸出製品としては、大豆42.6%、綿糸(綿製品)10.7%、木材製品7.8%、粉類7.8%、食用油6.6%、肉製品4.7%などとなっている。今後、国際競争力を持つものとして、木材部門、皮革、自動車部品、農牧食料品、乳製品、森林、繊維、衣料品、エレクトロニクス製品、その他のサービス部門の開発を考えている。

(2)外国投資促進のための法整備
 パラグアイ政府は、持続可能な経済成長のための新たな戦略として、中長期的に成長でき、競争力を強化すべく努力している。このためには、各国からの外資導入が不可欠な要素となっている。このことによって、国際経済の中にパラグアイが出て行くことが可能だ。

 こうした私たちの計画をさらに強化していくために、政府は必要な改革を推し進めているが、特にメルコスール諸国の中で最もコストの低い位置を維持しようという方針である。その上で、すべての部門において外国投資を誘致し、新しい国家の形に寄与するように進める。政府が率先してこうした計画を進めながらも、実業界もこれにならって協力する体制となっている。そのために私たちは、根気よく適切な法律を整備し、新しい体制を定着させ、投資を誘致していこうとしている。外資誘致のためには、新たな明確なルールを定め、すべての人々に対しての機会均等を徹底させなければならない。

 パラグアイでは、外国投資に対して国内企業と同じ保障を法によって実施している。こうした外国投資を優先するさまざまな法律として「投資促進法」があり、有利な条件が投資家に与えられ、外資に対する厚い保護がなされている。また、資本の移動に関する制限もない。投資家に与えられるインセンティブとしては、関税の免除、資本財に対する減税、所得税の減税などがある。

 具体的に言えば、同法69条で、所得税を最高95%まで減税することが5年にわたって保証されている。資本財に対する関税も免除となっている。最も新しいものが、「マキラドーラ法」である(注1)。マキラドーラ・ゾーンにおいては、すべての輸出向けの活動に対して、免税措置が取られており、財とサービスの輸出に関しても優遇措置が取られている。唯一の必要条件は、計画を事前に提出することである。そのため国のいたるところで活動が可能となっている。しかもマキラ企業は、パラグアイで付加価値にわずか1%の税を払うだけで済むのである。

 メルコスール諸国との比較で言えば、パラグアイには個人所得税がない。また法人税も、アルゼンチンに比べ30%と低い。配当に対する税もパラグアイが一番低い。間接税、付加価値税も域内では最も安くなっている。

 直接投資を部門別にみてみると、サービス部門56%、製造部門44%となっている。今後の重要な産業分野としては、電話関連の産業投資が挙げられる。

(3)地理上の利点
 私はパラグアイという国は、投資家にとっては、その仕事を拡大していく上で有利な市場であると考えている。同国はメルコスール諸国の地理的中心部に位置し、戦略的にも有利な地点と言える。メルコスールを視野に入れると、これは南米南部の唯一の大きな市場であり、非常に大きな生産センターとして機能している。そしてパラグアイに投資を行うと、非常に大幅な運賃の節約ができる。なぜなら、パラグアイの地理上の位置が有利である。ブラジルのパラナ州、マートグロッソ州、リオグランデドスル州などに近く、アルゼンチン北東部、ボリビア南部へも近い。さらにメルコスールの中心的都市であるサンパウロ、ブエノスアイレスへのアクセスもいい。この二つの都市は、パラグアイからほぼ等距離にある。パラグアイで生産した場合、その産品の域内輸出に際しては、有利な条件を備えているといえる。

 地理的にも有利で、メルコスール、南米の中心に位置しているために、生産拠点として輸出しやすい。パラグアイから、メルコスールの重要な諸都市に等距離で行くことが可能である。道路も完備しており、国内、国際道路、鉄道もある。水路も年中使用可能であり、海からパラグアイまで船で遡ることができる。飛行機を使うと、メルコスール諸国の各首都までそれぞれ約2時間で行ける。

(4)労働市場と為替政策
 労働コスト面でも、パラグアイで生産することは非常に魅力的である。特に、地域内と他の地域とを比較した場合に、コスト面での有利性がみられる。また、こうした進出企業にとって必要な経費と言う面からも、メルコスールの中でパラグアイは低コストの国となっている。国内には電力が豊富な上、その料金も安い。電気代の比較をすると、メルコスールの平均が50セント、パラグアイは30セント。パラグアイにはさまざまな電力企業が参入しているが、発電総量の国内消費はわずか5%で、残りは輸出用となっている。

 またパラグアイの土地は肥沃であり、全国に水路があり灌漑設備も整っている。非常に気候もよく、農業、牧畜に適しており、一年を通してこうした産業が可能で、農産加工業のチェーンも発達している。

 パラグアイの提供できるもう一つの特徴的事項は、労働力である。パラグアイは、宗教的差別、人種差別のない国であるとともに、また若い国でもある。年齢別人口構成を見ると、14歳以下が40%、30歳以下が70%を占めている。将来的にハイレベルの訓練が期待されている。そして労使関係も比較的良好で、建設的、調和が取れており、労働争議もほとんどみられない。

 為替政策について言えば、輸出競争力を妨げるものとはなっていない。パラグアイでは自由為替相場制を採用しているが、特に規制はない。投資家は、自由に資本と利益を祖国に送金することが可能となっている。こうしたさまざまな利点があり、経済は非常に開放的で安定している。自由為替相場を取っているが、インフレ率も低くよくコントロールされている。主な外貨も充分に蓄積されており、対外債務の割合も、他の加盟国に比べ非常に低い。また今回の改革プログラムを推し進めて、民営化もほとんど全面的に進みつつある。

3.世界、日本との関係強化

 国際社会に目を向けても、現在わが国が進めている改革はグローバル化の波と合致しており、私どもは民間部門と協力しながら国を開放していく構えである。そしてパラグアイは、国際社会の中にあって競争力のある、また地域に統合された国としての発展を見込んでいる。すなわち、メルコスール、NAFTA、などを念頭におき、世界貿易機関などの世界的機関に加入しようとしている。このため私たちは、今後もメルコスール諸国との同盟関係を強化してゆきたい。

 わが国の実業界の人々は、このような戦略的な同盟を世界の実業家たちと結びつつ、共に歩み、共に補完しあいたいと考えている。そして地域、世界全体に向けて、競争力をもって進出してゆきたい。

 今回来日する中で、日本の人々にパラグアイに対する新たなイメージを描いていただければ幸いと思っている。パラグアイは、大きな潜在力、さまざまな利点のある国で、日本との絆を深めてゆきたい。地理的には非常に遠い国であるが、今日のグローバル化の波によって距離が縮まっているので関係強化を進めてゆきたい。
(2002年2月18日、東京において開催された講演の要旨をまとめたものである)

編集部注
マキラドーラMaquiladora
 メキシコがアメリカとの国境地帯に設けた保税輸出加工区。輸入原料への関税免除、付加価値に対してのみ行う課税などの優遇措置で、アメリカを中心に日本を含む外国企業が多数進出している。これと同様の措置をパラグアイにも設定し施行ようという試みである。(有斐閣「経済辞典」第3版より一部引用)