ベトナムの高等教育に対するグローバル化の挑戦

国立ベトナム大学講師 グエン・ティ・アン・トゥ

 

1.20世紀と数々の新しい挑戦

 全人類はまもなく21世紀を迎えようとしているが、この21世紀は、グローバル化された経済によって創出された新しい機会と挑戦の世紀であると言える。科学、技術、通信手段の急速な発達により、グローバル化がこの10年間、足早に進行し、現在では、この世界中の国々、社会、経済に影響を与えている。

 過去10年間にわたって世界経済がその発展に成功したことにより、グローバル化のプロセスは加速化された。結果として、世界の富は増し加わり、世界貿易は空前の発達を遂げたが、他にもグローバル化の過程によって、紛れもない数々の成果、特に知識産業の発展がもたらされるようになった。

 グローバル化の進展は、全世界に対して新しい挑戦(課題)を同時に突きつけようとしている。特に、環境が悪化し、また先進国・発展途上国間では富めるものと貧しいものとの格差がますます深まっているのである。これらの事柄は、世界の平和と安全に対する潜在的な危険をはらんでおり、各地での紛争を引き起こし、貧困の増大と伝染病の拡散をもたらして、人類全体の上に直接的な影響を及ぼしている。

 グローバル化は、今日、単に経済の問題ではなく、それが文化、教育、科学、技術などさまざまな社会活動に影響を及ぼしている。このグローバル化の過程で、(各方面に)競争がもたらされてきたが、その競争に勝ち抜こうとすれば、グローバル化進展の速度とそれが取り巻くものに対処するための継続的な努力が、常に各国に求められるのである。

 教育と実習、それに科学技術は、グローバル化と不可分な要因であるが、現在これらは、そのグローバル化過程にあって多大な影響をこうむっている。先進国と発展途上国の間では、相互理解が欠如し知識の格差が大きく拡大しているが、その一方で、所得レベルの差はこの増加に追いついてきていない。グローバル化は人類を知識経済に導くものであって、そこでは技術知識と具体的な技能によってのみ比較優位性が保たれるので、この実情は特に深刻である。常に増えつづける発展途上地域から先進地域への“頭脳流出”が、さらに顕著なものになる。

 グローバル化過程にともなって、各国は国内制度の根本的な刷新が要請されていると同時に、地域間、国際間のあらゆるレベルにおいて相互協力が必要である。それは、グローバル化による各国への損害を少なくするために必要なのである。

2.ベトナムにおける新時代の新教育政策

 数々の経済刷新と開放政策にともなって、ベトナムは世界や地域の経済圏に組み込まれつつあるが、その過程でいくつかのよい結果がもたらされている。即ち、経済発展、及び域内諸国や世界の国々との協力・繁栄などである。しかしその一方で、国内生産における競争が激化し、数多くの難問題が生み出されている。富裕層と貧困層の格差増大、環境汚染、急速な都市化と失業者の増大、社会問題といった開放政策から生ずる数々の問題に対する解決策づくりを活用しながら、潜在的比較優位性を最大限に高めようとした。

 ベトナムでは、この経済開放政策に加え、教育と実習の刷新、特に大学教育においてのそれが、経済の新しい発展需要に応えるのに顕著に重要な役割を果たしている。1993年、教育の刷新と実習に関する一つの政策が、ベトナム政府の政策――教育と実習、科学と技術は国家の第一優先事項である――に従って描かれた。教育と実習は、社会経済の目的や国家建設、国防を成功裏に成就するために必要な基盤であり、また積極的要因であるとみなされている。ゆえにベトナム政府は、これら教育・実習の分野に対する投資を、政府の投資政策の目標の一つと考えている。(政府は)従って教育と実習が、社会経済的発展に、より一層効果的に役立つように、好ましい条件を創出してきた。社会経済が発展段階に至ると、今度は社会全体が、教育と実習のために動くようになり、国民は国の教育制度の発達と定着に貢献するようになるだろう。

 教育発展の目的は、基礎知識の普及・向上、人材の訓練、才能の育成などであるが、それとともに、教育範囲の拡大、その質の向上、国民の知的レベルの向上をもたらす。そうして教育は、国家の目標、即ち、国家の繁栄、強力な国家、正義と平等の社会の実現にむけて貢献するようになる。より具体的にいえば、教育と実習の目標は、ベトナム文化の特徴、国家の伝統を守りつつ、国家建設と国防のニーズに応えていくような将来の仕事にむけて、知識や技能を活用することのできる自立した、創造的かつ積極的な人々を生み出すことである。

 教育実習と研究に関する高等教育改革の内容は、総合大学と単科大学の体系を再編することに焦点を絞っている。すなわち、大学制度と実習の範囲/カリキュラムの一新、教育と研究を密接に連係させるような新制度に基づく教科書の執筆/教員の教育と再教育/道具や施設を近代化して実習課程や研究活動に役立たせる。この改革によって、わが国の高等教育は、域内諸国や世界の高等教育界に参入することができ、新しい社会のニーズに応えることができるだろう。

 現存する153の第三次教育機関の再編と整理は、高等教育の強化・刷新過程における非常に重要なポイントであり、他の関連活動に向け好ましい条件を創り出しうる。その基本的目的は、次のとおりである。

1)実習と研究効率を高め、また今の人材を最大限に活用できるように、高等教育機関が狭く専門化され非能率的に分散化された状況を克服すること。教員、マネージメント職員、奉仕員の分担金。

2)実習を研究と社会奉仕に密接に結びつけること。具体的な目標は、新しいタイプの教育機関を立ち上げること:

 *学際的大学
 *単科大学
 *放送大学
 *コミュニティー・カレッジ
 *準公立・私立教育機関
2つの国立大学の創設(ハノイ市とホーチミン市)は、高等教育の刷新における最も重要なポイントである。

3.アジアにおける高等教育の協力と発展

 アジア諸国の経済発展によって、これらの国々において経済成長に関与する一つの重要な役割は、“東洋文化”であるといわれる。この文化は、哲学的意味や、民族の伝統、教育や実習が重要な役割を果たす社会習慣を含んでいる。

 アジアで経済発展に成功してきた国々のほとんどは、主に教育と科学に力を注ぎ、今日何らかの確固たる成功をおさめている。しかしながら、グローバル化の新しい挑戦に対処しなければならないので、これら教育・科学以外の分野にも関心を向けて、域内国家の知性人や潜在的科学技術を活用する協力体制を高める必要がある。

 最近の数十年間に、アジア経済の発達は、各国間の地理的・文化的利点のみならず、共通の関心事項・利害によって、協力・繁栄の強固な基盤を敷くことができた。この協力体制は、今日、他の多くの分野にも拡大していて、継続して発展している。科学研究のみならず、教育・実習の分野でも、諸国間の協力関係はすでに確立されており、より一層効果的になりつつある。しかし、21世紀の数々の課題に先だって、それでもなおこれらの相互協力関係は、地域発展や世界レベルへの参入に対する需要に応えていない。

 アジア各国間における教育と科学の協力の方法として、以下のものを挙げたい。

1)天然資源と環境、社会科学と人文科学、それに科学と技術における合同研究プロジェクト

2)研究と実習のための、科学者と教育者の交換プログラム。相互理解と学習の強化を目
的とした学生交換プログラム

3)情報提供と経験交換の発展という専門化した共通の話題を扱う国際会議や研究会の組織

 ここに言及した諸活動は、二国間、あるいは多国間協力のもとに実行され、域内あるいは世界の民族に対する相互理解を高めることを目的とし、来年度、相互に利益をもたらす基盤にたって友好協力しながら準備している。

4.国際組織との協力と拡大

 グローバル化の過程に伴い、教育や文化面のみならず経済面においても、さまざまな地域化傾向(リージョナリズム)が強くなっているが、この傾向は、共通の懸案と利害に対する地域諸国の“統合化の傾向”を示してきた。さらに、これらの傾向は、各国が世界に参入することを妨げず、それどころか、この地域統合化の傾向によって、各国は国際協力において自国の立場を主張するのによりよい条件が備えられるようになるのである。

 その設立当初、国立ベトナム大学ハノイ校は、教育実習の質的向上における国際協力の役割の重要性を明確に認識し、科学研究力でもってそれを示し、その後も、継続して国際協力を強化し発展させてきた。このように同校は、世界中の多彩な教育機関から、最も効率的に支持と協力を得てきたのである。 

(この論文は、2000年11月7〜11日、韓国・ヨジュ市で開催された第2回AUF年次総会国際会議において発表されたものである。)