現代社会における家庭問題の争点

ワシントン・タイムズ記者 シェリル・ウェッスティン

 

1.米国における三つの巨大な文化的論争

 米国で起こっている最も「巨大(titanic)」な文化的論争であると私が考えている三点について、吟味してみたい。ここであえて「巨大」という表現を使ったのは、それらが米国の方向と将来を変えてしまうほどの大きな可能性を持っているからなのである。その三点とは、@子供の性教育、A若者の結婚前の同棲問題、そしてB「父親不在(fatherlessness)」という問題である。

 このうち三番目に関していえば、「父親なしで、どうして家族といえるのか」と尋ねるのは当然の論理であろう。しかし米国では、現在2470万人の子供(36%)が、家庭に当然いるべき父親を持たずに成長しているのである。これは父親が家族に不可欠な存在だと考えられなかったことが背景にある。それでは米国は、なぜこのような状況になってしまったのか。

 私はワシントンタイムズ社の新聞記者として、過去4年間、核家族の崩壊を助長させている勢力と、家族を守り再建しようとする勢力について報道することを通し、この問いに答えようとしてきた。

 ところで、「米国が文化的岐路にあり、精神的・道徳的に退廃している」と考える米国人たちがいるが、彼らは多くの場合、政治的には保守的であり、伝統的な価値観を持っている。また彼らは、恐らく無名の賢人の「富失うとも何も失わず。健康失わば何かを失う。人格失わば全てを失う」という言葉に同意するに違いない。

 しかし、全ての米国人がそう考えているわけではない。別の人々は、「単に米国が、何か新しい段階へと進化している」と考えている。このグループは、典型的な革新系で、政治的にはリベラルである。彼らは米国民が、新しいタイプの人間関係や新しいタイプの家族――混合家庭(blended family)、つながりのない家族の集団、同性結婚、また基本的に愛し合っていれば誰でも一緒に住むことができ、家族と呼ばれるという考え方――へと変わってきていると考えている。 

 私がこのような考え方を持ち出すのは、それらが上述の三つの「巨大」な論争の根底にあるためなのである。

2.子供の性教育

(1)米国青少年の性の現状
 第一の問題は、学校に通う子供たちに包括的性教育と自己抑制の性教育のどちらを教えるべきかという闘いである。この二つを組み合わせた「自己抑制プラス」という第三のグループもあるが、自己抑制性教育論者は「自己抑制プラス」は見せかけの性教育であるとして拒絶しており、今のところ解決方法の一つとは見られていない。

 米国では、毎年90万人の10代の少女が妊娠し、そのうち50万人が出産しているが、この若い母親たちの76%が未婚者である。これらの出産は、米国120万件の未婚の母親による出産の一部分で、米国の全出産数の約3分の1が未婚の女性によるものとなっている。婚外出産は、貧困、少年犯罪、不健康、低い教育水準、低い職業能力、行動・情緒障害など、多数の社会的病理と関連している。それとは別に120万件の妊娠は、中絶に終わっている。

 また、増大する性感染症(STD)の問題もある。米国では毎年新たに1200万件のSTDへの感染があり、そのうち3万件はティーンエイジャーによるものとなっている。治癒可能なクラミジアというSTDや治癒不可能な生殖器疣贅、ヘルペスは急速に増加している。ところで、コンドームは生殖器疣贅やヘルペスの予防に対してほとんど効果がない。そして毎年4万人から8万人がエイズと診断されている。

 それゆえに、子供が性に関して何を教えられるかは、親、政策立案者、教育者、社会にとって非常に大ききな関心の対象なのである。

(2)包括的性教育
包括的性教育と自己抑制性教育の両方がとても高度な取り組みをしており、それらはどちらもカリキュラム、映画、教科書、教材を使用している。しかし、これら二つの取り組みの内容は大きく異なっている。

 30年ほども続いてきた包括的性教育は、情報を基礎とし、子供に人体や生殖、受胎調節について教える。性的自己抑制にも触れてはいるものの、若者が性的な関係を持つことに対しては、「“準備ができる”まで延長すべきだ」といった具合に教える。

「全米中絶生殖権行動連盟」(NARAL:National Abortion and Reproductive Rights Action League)は、性が「正常で健康な生活の一部」として紹介されるべきであり、性教育は子供の自尊心、自分と他人に対する尊敬心、個人的責任を育てることに重点を置くべきだと主張している。

 この見方は一般に広がりつつあり、米国のほとんど全ての成人(90%)が学校で性教育が取り入れられるべきだと考えている。NARALは、「学校の性教育のクラスから子供を連れ出す親が5%にも満たないので、親は包括的性教育を望んでいる」と主張する。

 NARALや他の包括的性教育論者は、取り組むべき課題が沢山あると言っている。なぜなら、全米50州のうち22州のみが性教育を必須課目としているのみで、12年間にわたって性教育を受けているのは米国の学校生徒の10人に1人に過ぎないからである。また、適切な訓練を受けた性教育の教師が全く不足していると主張している。NARALとその支持者は、より多くの支援と資金、より広く法的に義務づけられた性教育を望んでいる。

(3)包括的性教育の問題点
 しかし、包括的性教育を好まない人々がいるのは、次のような理由からである。彼らは包括的性教育が余りにもあからさまで、露骨だと感じている。例えば、あるカリキュラムでは、幼い子供に自慰行為の概念を紹介する。しかしほとんどの米国人が、それは行き過ぎだと感じている。ちなみに、クリントン政権の公衆衛生局長官であったジョスリン・エルダース博士が解雇されたのは、幼い学校生徒に自慰行為について教えることを提案したためでもあった。

 また多くの人々が性教育に絶えず付きまとう「価値観抜き」のメッセージを好ましく思っていない。それは「セックスとはこのようなもので、セックスは良いものだ。これが安全にセックスを行なう方法だ」などといった内容である。性教育の批評家は、「もし子供にコンドームの使用方法を教えれば、その子供はあなたが彼らにコンドームを使用して欲しい、さらには性行為を経験して欲しいと願っている」と思い込むと言っている。

 もう少し詳しく説明しよう。学校における性教育とコンドーム教育によって、子供がより性的に活発になるか否かという現実的な問いがある。私が知るかぎり、主要な研究のほとんどは、学校でコンドームについて教えても、子供の性行動は増加しないことを示している。

 しかし、数年前にキャロル・アイナースト(Carol Innerst)というワシントンタイムズの記者が、性教育を避けたり自己抑制を強調した州では、コンドーム使用を奨励した州より妊娠率がより低かったという記事を書いた。このように、性教育が子供の性行動を刺激するか否かの問いにはまだ結論が出ているとはいえない。

(4)自己抑制性教育
 それでは次に、自己抑制性教育に目を向けてみよう。

 米国では、1970年代と1980年代に、女性が率いるごく少数のグループによって、自己抑制教育が始まった。多くのプログラムが自家製であったために、自己抑制教育には様々な種類がある。しかし、ここでは二つの大きな集団について説明する。

1)トゥルー・ラブ・ウェイツ(True Love Waits)
 先ず、「トゥルー・ラブ・ウェイツ(True Love Waits=真実の愛は待つ)」である。

 トゥルー・ラブ・ウェイツは1993年、テネシー州の少女たちが教会のリーダーに次のように話したことが、その始まりであった。「中学校で私たちだけ処女でいることが、どれ程ばかばかしいか分からないであろう。」

その教会の指導者のリチャード・ロス牧師は、彼女たちは間違っていることも分かるし、彼女たちの仲間のほとんども同じように処女であることも知っていたと私に言っていた。しかし、その少女たちは自分たちが少数派だと感じており、「彼女たちにとっては自分が感じたことが現実なのだ」とロス牧師は言っている。

 そこでロス牧師は、10代の若者たちが「私は結婚関係の誓いを立てるその日まで、純潔を守ることを誓う」と記された「誓いのカード」に署名をするというアイディアを思いついた。そのアイディアは成功し、何百、何千もの10代の若者がそのカードに署名を始めた。
 ロス牧師らは、このカードがひとつのメッセージを伝えるだろうと考え、さまざまな公共行事でそのカードを地面に杭で固定し始めた。1994年の夏、トゥルー・ラブ・ウェイツはワシントンDCでラリーを開催し、米国の中心地の正面に24万枚のカードを並べたのであった。 

 今日、トゥルー・ラブ・ウェイツの主催者は、世界中で百万人近くのティーンエイジャーがこの純潔の誓いに署名をしたと考えている。多くの宗教がこのアイディアを採用し、若者向けに独自の誓いのカードを作り上げた。

 この誓いのカードは良い考えだが、しかしそれだけのことだと批判する人々もいた。しかし、1997年の全米調査では、「純潔の誓い」に署名をしたティーンエイジャーにおいては、時期尚早の性関係など、健康に危険をおよぼす行動に走る割合が著しく低いことが示さた。

2)ベスト・フレンズ(Best Friends)
 第二の自己抑制プログラムは「ベスト・フレンズ(Best Friends)」である。

 これは米国で最も古い自己抑制プログラムの一つであるが、12年前に米国の有名な著述家であり政治指導者であるウィリアム・ベネットの夫人、イレーン・ベネットによって始められた。ベスト・フレンズは公立学校で活用されている最大の自己抑制プログラムである。20以上の州で第5〜第6学年(小学校5年〜6年)の6000人に近い少女を対象としている。

 ベスト・フレンズは、少女たちにどのようにして少年たちからの「誘惑」の言葉を見抜き拒絶するのか、どのように飲酒や薬物を避けるか、あるいは、どのようにしてよい決定をするためにお互い助け合うか――つまり「最良の友人(best friends)」でいるか――を教える。

 ベスト・フレンズは現在、大規模なプログラムの見直しを行なっている。しかし、以前の研究では、ベスト・フレンズに参加しなかった同級生は、20〜30%が妊娠していたのに対し、参加した少女の中で妊娠したのはたった1%であったことが示された。

 私が知る限り、ベスト・フレンズもトゥルー・ラブ・ウェイツも若者にどうやって受胎調節をするかを教えない。これが、これらのプログラムが「自己抑制のみ(abstinence-only)」のプログラムとして知られている理由である。

(5)二大性教育論争
 包括的性教育論者と自己抑制性教育論者の間には多くの論争が生じている。

 包括的性教育論者は、自己抑制のみのグループを、粗悪なデータを使用して不埒な声明を出す「右翼的狂信者」と呼び、自己抑制のみのプログラムは機能せず、実のところ、子供に受胎調節やSTDから身を守るコンドームの使用方法を教えないので有害だと主張する。

 つまり、35年前に設立された「性情報と教育に関する米国評議会」(SEICUS:Sexuality Information and Education Council of the United States )の会長デブラ・W・ハフナーが言ったように、「子供たちは命を救う公衆衛生情報を与えられないでいる」という見方である。SEICUSは、包括的性教育の強力な支持団体であり、彼らのいう「結婚までの自己抑制」教育の強硬な反対者なのである。

 しかし、自己抑制性教育論者は、SEICUSとNARALの取り組み方に対して、次のようにいくつかの主要な批判を展開している。

 第一に、包括的性教育が、ピル、「ノープラント」や「デポ・プロヴェラ」のような 注射可能な受胎調節薬、コンドーム、臨床サービスを行なう診療所など、販売対象物と結びついているという。つまり、性教育の取り組みは営利目的だという批判である。モーリー・ケリーという自己抑制性教育家は、好んで「自己抑制では誰も儲けていない」と述べている。

 第二に、自己抑制性教育論者は、「包括的性教育を信じる人々は、その考えを証明するのに約30年もかけているが、全国民が体験したのは増加する10代の妊娠や中絶、手に負えないSTDだった」と主張している。自己抑制はこれらを防ぐ唯一の確かな方法であり、結婚に備える最善の道であるという。あるグループは、「コンドームは心の傷から守ってくれない」というスローガンを掲げている。

 何年もの間、この論議は主に学術的なものであった。連邦政府は、包括的性教育に関連した家族計画プログラムに対し、1年間あたり2億ドルを費やしたが、自己抑制性教育に対しては7百万ドルであった。

 1996年の社会福祉制度改革法で、議会は自己抑制性教育に対し1年間あたり5000万ドルの予算を認めた。その自己抑制性教育は、10代の若者は学生である間、そしてできれば結婚まで、性的な関係を持つべきではないと主張するプログラムが対象となっている。この法律により、今後5年間で自己抑制性教育に5億ドルの資金が費やされることになる。

 これに対して包括的性教育論者は激怒し、州政府がその自己抑制の資金の獲得を「自制」するよう求めた。しかし州政府は、それを獲得し、SEICUSによれば、初年度に700の新しい自己抑制性教育プログラムが作られた。

 彼らの作戦は、現在次のようになっている。SEICUSとその支持者は、政治家と地域社会指導者に自己抑制のみの教育の愚かさを警告することを決意している。そしてその次に、彼らは「自己抑制プラス」の教育を包括的性教育として推進する。なぜなら、「自己抑制“プラス”ある程度の受胎調節教育」を実施するプログラムも、性関係を遅らせる一定の効果が示されたからであった。

 その他、「Advocates for Youth(若者の代弁者」などの性教育の支持者は、ヨーロッパ式の「safe sex or no sex(コンドームによる「安全なセックス」か、セックスなしか)」を主張する性教育を全力で推進するつもりである。

 オランダ、ドイツ、フランスはこの考え方を用いており、10代の若者の受胎調節を認めている。これらの国々では、10代の若者が実験的に性関係を結ぶことを想定しているが、それによって妊娠したりSTDに感染するとは考えていない。実のところ、オランダには、少女たちが妊娠を防ぐためにピルを使用し、少年たちはSTDの感染を防ぐためにコンドームを使用する、俗に「ダブル・ダッチ」と呼ばれる有名なテクニックがある。

 Advocates for Youthは、このような「safe sex or no sex」という考え方が米国でも受け入れられることを期待しているが、簡単には行かないでろう。なぜなら10代の少女たちは、容易に受胎調節をすることができないし、米国のテレビ局はコンドームのテレビ広告を放送しないからである。

 一方、自己抑制性教育の人々の戦略は、彼らのプログラムが機能していることを示す研究結果を入手し、前述の連邦政府からの補助金を継続させ、彼らのプログラムに対する精神的支持を得るというものである。

3.同棲問題

(1)米国の同棲の現況
 性教育に関する以上のことは、10代の若者が肉体的・性的・法律的に大人になるにつれて起こってくる第二の「巨大」な家族問題の闘いにつながると私は見ている。それは、結婚せずに同棲するカップル数の増大である。

 今日、米国の若い成人は通常25歳か26歳になるまで結婚しない。それは彼らが性的に成熟してから裕に10年が過ぎており、半分以上の若者にとって、最初の性体験を持ってから8年後のことになる。

 結婚をしないとすれば、これらの性的に成熟して独立している成人たちは、何をしているのであろうか?彼らの多くは、一緒に生活する意志を固める。それは研究者たちが「cohabitating(同棲)」と呼び、聖職者が「罪の中で生きる」と表現し、ラジオの人気トーク番組のホストを務めるローラ・シュレッシンガー博士が‘shacking up’(同棲の口語)と表現する行動である。

 米国では、同棲はまれな現象であった。1960年に同棲していたのは430,000組のカップルであったが、1998年3月の時点で、その数は420万組にも昇っている。これらの同棲カップルの半数以上が35歳未満で、最大の集団は24〜35歳の間の年齢層である。同棲は全く減少する気配がない。実のところ、高校生の60%が「同棲は結婚に備える良い手段である」と考えている。

 ところで、この同棲に対する関心は、あまり結婚や離婚に関する有効なデータを持っていない米国の研究者の間にも徐々に高まりつつある。事実、米国の著名な社会学者、ラトガーズ大学のデイヴィッド・ポプノーは同棲を「ステルス・トレンド(忍び寄る風潮)」と呼んでいる。

 それでは、同棲は無害で際立った特徴のない人生の出来事の一つなのか?それとも、人生の破局なのか?果たして同棲は、結婚への良き準備なのか?または結婚を虫食むものであろうか?性的に成熟した若いカップルにとって、結婚の準備をする一方で、一対一の恋愛を経験することは安全な方法なのか?あるいは、結婚まで同棲を控える方がよいのだろうか?

(2)同棲賛成派の主張
 米国はスウェーデンやデンマークなどの欧州諸国に比べて、同棲に関しては晩成型だという意見を耳にしたことがある。これらの国々は、同棲の結末について、それらが正しいかどうか判断するのに良い場所だと思う。

 まず同棲を認めるか、あるいは避けられないとみる人々の考え方をまとめてみたい。

 メリーランド州ベセスダにある「World Future Society」の会長であるジョセフ・コーテスは、「同棲しているカップルのような非伝統的な家族が、将来のあり方だ」と言った。彼は、米国の若者が大学を卒業し、就職し、落ち着いて準備ができるまで結婚を思いとどまっていると言う。

 同棲によって二人が生活費を共有し、お互い一緒に過ごすことを楽しみ、「節度あるデートができる」と多くの女性が言い、「電子レンジの夕食を食べなくても良い」と多くの男性が言う。

また同棲は住み込みの恋人を与え、おおむねセックスがその主要な部分となっている。研究によれば、同棲している男性は独身者や既婚男性よりも、より頻繁に性的な関係を持つ。同棲している男性は1ヶ月に7.4回であるのに対し、既婚男性は6.8回となっている。
 ボストンにある「Alternatives to Marriage Project(結婚に替わる選択プロジェクト)」というグループは、もっと米国社会が同棲カップルを歓迎するよう熱心に活動している。

 結婚するつもりもなく6年間一緒に生活してきた未婚のカップルが率いるこのグループは、法律が結婚しているカップルのみ優遇しており、より民主的なパートナーシップの法律と同棲カップルに対する平等な扱いが必要だと訴えている。

 同棲しているカップルが結婚しているカップルと異なった扱いを受けているというこのグループの主張は間違っていない。事実、米国では50州のうち12州が同棲を非合法化している。

 しかし、結婚しているカップルが全ての恩恵を受けているという彼らの観点は間違っている。なぜなら、米国の結婚しているカップルは、他の家族集団よりも、約1,200ドルも多く税金を支払っている。これを俗に「結婚に対する罰金(marriage penalty)」などと呼んでいる。

 最後に、同棲に賛成している別のグループは、それを実践している人たちである。若い女性は「男性が朝どんな様子か知りたいので、その人と同棲してみたい」と言う。彼は服を拾い上げるだろうか?彼はいびきをかくのか?彼は金づかいが荒いのか、休日にテレビばかり見ているか。カウチポテトなのか?などといったことに関心を持っている。

 若い男性は、誰かに食事の準備や洗濯をして欲しいし、一緒にベッドで寝て欲しいので、女性と同棲すると言う。実のところ、多くの男性は永遠に同棲しても良いといっている。一方、女性は同棲は1年以下にして、後は別れを告げるか結婚するか、どちらかにしたいと望んでいる。

(3)同棲の結末
 それでは、研究が示している調査結果を紹介しよう。

 同棲カップルのほとんど(60%)が後に結婚する。その他の40%の同棲カップルのほとんどが別れる。同棲カップルのうち、10年後も同棲を続けているのは10組に1組のみである。また、上記の結婚した60%の同棲カップルのうち、半分以上(57%)は10年以内に離婚している。

 同棲カップルと結婚前に同棲をしなかったカップルの離婚率と比較してみると、結婚前に同棲しなかったカップルのうち、10年以内に離婚したカップルは、30%に過ぎないことが研究で示されている。したがって、研究者たちは、同棲が離婚の危険性を増大させていると結論づけている。

 次に、夫以外の男性と暮らすと女性が肉体的・性的虐待を受ける危険は増大し、子供が性的・肉体的虐待を受ける危険も増大する。この理由は、そのカップルが「ソウルメイト(心の友)」というより「ルームメイト」の関係であり、各自の責任がはっきりしないために、喧嘩へと発展しやすいためである。同棲カップルはよく喧嘩をする。実際、同棲における暴力と虐待の危険は大きく、ある研究者たちは、もし子供がいる場合には同棲しないようにと、カップルに警告している。

 また研究によれば、同棲している人々は、同棲相手に対して性的に忠実ではない。結局、彼らは結婚していないのであり、これも喧嘩の原因につながっていく。

  同棲の性的側面についてみてみると、同棲カップルの方が、結婚しているカップルよりも一ヶ月あたりの性的関係が多いと先述したが、同じ研究によれば、心理的・感情的満足度という面では結婚しているカップルが一番高く、同棲カップルよりも高い結果を示している。

 このように、結婚しているカップルは同棲カップルより若干性関係を結ぶ回数は低くなっているが、結婚しているカップル――特に女性――は、よりそれを楽しんでいると見ることができる。シカゴ大学のリンダ・ウェイトのような研究者は、そのことを「結婚したカップルが、お互いに対して感情をより深く注いでいるからだ」と説明している。

 これまで研究者たちは、「同棲は、もしそれが短い期間だけ持続し、そのカップルが積極的に結婚する計画を立てている――指輪を準備し日程を決めているなど――なら、全く有害ではないようだ」ということを発見した。また、一緒に暮らしているが、結婚をしていない年老いたカップルについては、直接的な問題はないようである。

(4)同棲と結婚との関係
 しかし、研究者たちは、同棲が結婚を虫食むさらに三つの点を発見した。

 @最終的に破局を迎えた複数の性関係を持った経験のある人は、異性を信頼できなくなり、裏切りや幻滅を感じやすい。それによって、結婚生活の中で人と深く関わり合うのが困難になる。

 A同棲は一時的なものである。二度以上同棲する人々は、一時的な関係を結ぶことが習慣性になり、難しくなればその関係をあきらめることに慣れてしまう場合がある。これは、ある人と結婚して「死が二人を別つまで」共に生活をするための良いトレーニングとは言えない。

 B自己の自立と経済的独立に価値を置く人々は、妥協したり共有しなければならない関係の中で生活するのは困難だと感じる。

 誰もこの同棲の社会的風潮に対して直接的な解決方法を持っていない。多くの米国人が「まあ、誰も傷つけている訳ではないし、いずれにしても彼らは結婚するだろう。それに同棲している間は一対一の関係を保っているし、大した問題ではない。誰とでも関係を持つよりは良い」と考えている。

 ボーイフレンドやガールフレンドと一緒に住まないと決めている若い人々は、ほとんどの場合、その理由を親が認めないからとか、自分の宗教的価値観に反するからだと言っている。

 考えられる少なくとも一つの解決方法は、最近『私たちの母親が話さないこと:なぜ現代の女性は幸せを逃すのか』という本を書いた、ダニエル・クリッテンデンという作家によって提案されている。クリッテンデンは、現代のカップルが祖父母がたどったのと同じような人生の行路に帰るよう提案している。つまり、若くして結婚し、狭い場所に住み、自分たちがより大きく、より善なる発展をするにつれて子供を設けるということである。

4.父親不在

(1)社会学的考察
これらのことは今日、米国が直面している第三の「巨大な危機」と関連しており、より強く議論されつつある。すなわち、「父親不在」という問題の出現である。「父親不在」という言葉は本当に奇妙な概念である。精子銀行へ行ったり、片親として養子を引き取りでもしない限り、家族の創造には、必ず父親が関わっているからである。

 どのように父親が失われるのか?
 その答えは簡単である。女性が決して配偶者を夫として受入れないか、結婚しても夫を捨ててしまうか、または男性が女性を妻として受入れないか、結婚しても彼女から立ち去ってしまうということである。

 男性と女性は、何世紀にもわたって問題を抱えてきた。私はこの一連の性に関する戦争が新しいものであるとか、歴史上最悪のものだと論ずるつもりはない。しかし、米国では過去数十年間、何百万件もの離婚があり、何百万人もの婚外子がおり、離婚と婚外出産は、父親不在の家庭への主要な二つの道筋となる。現在、2,470万人の子供が、生物学上の父親不在の家庭で育っている。研究はそれが子供にとって大変な事態であると示している。

 例えば、生物学上の父親が不在のまま生活する子供は、結婚している生物学上の両親と生活している同級生に比べて、より貧しく、より学校で問題を起こしやすく、より感情的・心理学的問題を抱え、より児童虐待の犠牲者となり、犯罪行為にも関わりやすい。

 デイヴィッド・ブランケンホーンは「父親がいないという現象は、我々の世代において最も有害な人口統計学的傾向である」と、彼の著書『父親のいないアメリカ』で述べている。「それは、我々の社会の子供の幸福低下の第一の原因である。また、犯罪から思春期の若者の妊娠、子供に対する性的虐待、女性に対する家庭内暴力に至るまで、今日の差し迫った社会的問題の原動力となっている」。

(2)父親不在をもたらした原因
 では、これらのことは何に原因があるのか?

 米国は40年近くにわたって、性の道徳観を弛緩させ、男女の関係を変化させてきた。米国は妊娠しないセックスを可能にしたピルを受け入れた。また、可能な限り多くの人と性関係を持つことは良いことで、健康的なことであるという、「プレイボーイ」的な精神性をも受け入れた。

 この国はまた、配偶者は結婚の破局が誰の責任であるかを示さなくても良いという法律により、離婚をより容易なものとした。さらには、「気持ちが良ければ、すれば良い」という快楽主義的な哲学を受け入れ、かつて「魚が自転車を必要とするほどに、女性は男性を必要とする」と主張したフェミニズムを、普遍的に受け入れた。これらのことが、異性間に不信や憎しみさえも作り出したといえる。

 公正さを保つために言えば、フェミニズムなどは法律面での政策や実践に、沢山の人々が望む多くの変化ももたらした。たとえば、女性は働き、投票し、自分の銀行口座を持ち、所有物を持つことができるようになった。

 私はこれら全ての直接的な受益者であるが、このような特権を全て持っているだけでなく、私は記者でもある。何十年もの間、記者は全て男性であった。私の23年に及ぶ職歴においても、女性の記者であることは簡単ではなかった。自分自身を証明し、ニュースを獲得するために、しばしば男性記者の二倍も働かなくてはならなかった。

 しかしながら、多くの人々は、米国の今日の法律政策が偏っており、離婚後の生活費、子供の保護や扶養、福祉、養育などの家庭の問題において、女性(特に母親)を優遇しているという事実を認めるであろう。男性は主に経済的援助の資金源として見られるようになった。貧しい家庭の間では、もし母親と子供が生活保護を受けようとすれば、事実上父親は不在であることが望まれる。

(3)新しい父親グループの動向
 今日の父親のグループは、男性は子供に対してお金以上の存在であると主張している。彼らは、男性は本当の父親と夫として行動することにより、家族にとって不可欠な存在であると訴えている。

 また彼らは、息子の感情的・精神的成長にとって男性が重要だと言う。父親は息子を開化させ、いかに責任ある男性となるかを教えるからである。この男と男の関係は、女性にはできないことであり、父親の役割は取り替えることができないと、その父親のグループは言う。デイヴィッド・ブランケンホーンが言うように、「世界で最高のママでも、父親にはなれない」のである。

 父親はまた、理想としてどんな男性と結婚したいか、またどんな男性は避けるべきかを教えるので、娘にとっても不可欠な存在である。

 過去5年間、米国では約2,000の父親グループが誕生したが、彼らは責任ある父親のあり方、固有でかけがえのない父親の価値に対し、世間がもっと注意を払うよう呼びかけている。そして彼らは、父親となる前の男性たち、父親となった後の男性たち、また家族と離れてしまった男性たちと密接に働いている。

 一方、女性のグループはどうか?
 私が見る限り、主要なフェミニストのグループはこの問題を無視することに満足しているようである。ある資料によれば、米国の女性の権利を主張するグループの第一の関心事は、働く女性に対するより高い賃金、働く女性のための安価で、不規則な時間帯にも利用可能な保育制度、有給の病気欠勤、妻への暴力に対するより厳しい処罰、子供の扶養義務のより厳しい実施などである。またあるグループは、米国の怠け者の父親たちが支払っていない養育費は410億ドルになると主張している。

 父親不在の問題を解決しようとしている他の勢力がある。米国では、結婚を強化し、婚外の妊娠を防止するために、相当な努力が重ねられている。

5.三つの巨大な文化的論争の展開

 しかし、私が冒頭で指摘した三つの問題、すなわち、子供の性教育、同棲問題、父親不在は、今後どう展開していくのであろうか。それには明確には回答できないが、家庭が国家の基礎であることを考えると、私はこれらの問題が国の将来を左右するであろうということを強く確信している。

 男女がお互いをどう扱うか、どのように結合するか、どのように子供を育てるか、また愛においてどのような行動をとるか。これらは社会において最も基本的で深遠かつ強力な問題なのである。

 故に、これらのことをはっきりと、また度々議論することが大切である。何が機能し、何が機能しないかを明確に知るために、これらの問題について研究がなされ、議論されることが必要である。私はその動機を吟味すべきだと思う。つまり、なぜ人々は受胎調節を推進するのか?なぜ人々は同棲を推進するのか?たとえ子供の世界を閉ざしてしまうとしても、なぜ男性と女性は結婚を解消してしまうのか?といった問いである。

 宗教指導者、地域社会の指導者、政治家はこれらのことを話し合い続けるべきである。コミュニティー、地域、国にどのようなタイプの家族が存在するかにより、そのコミュニティー、地域、国が定義される。

 私はジャーナリストという職業を通して、これまで沢山の悲しい話を聞いてきた。何度人々に、特に年老いた人々に、結局一番大切なのは家族と友人だと聞かされたか分からない。

結論として、家庭の伝統的な守護者である女性は、以上のような内容について見識を深めるべきである。女性たちが性教育と自己抑制教育の闘いについて知れば知るほど、彼女たちは家族と地域社会全体にとってより良い判断を下すことができるだろう。

 女性たちが、同棲についての賛成意見と反対意見についてより深く知れば、子供に対してより優れた忠告を与えることができる。先述したように、若者が結婚前に同棲しないと決意する二つの大きな理由は、宗教的価値観と親の反対である。親の意見は大切なのである。

 女性たちが本質的でかけがえのない父親としての男性の価値をより深く理解すれば、彼女たちは相手を選んで結婚する時に、より良い判断をすることができるであろう。また女性たちは、子供たちが模範的な夫、妻、人類家族の一員になるための、より良い子育てができるだろう。

 私は、この三つの危機の全てに対して、とても楽観的に展望している。なぜなら、これらの問題に全てをかけて取り組んでいる多くの素晴らしい人々に出会ったからである。

(1999年4月16日、マレーシアで開催された「純潔と真の家庭」国際会議にて発表)