家庭と高等教育
―韓国・ソンムン大学の挑戦―

韓国・ソンムン大学総長 李 京

 

1.はじめに

 教育学者、そして大学長という私の立場から、道徳的な価値から見た高等教育の役割、そして高等教育と家庭との関係について、ソンムン大学における経験をもとに、簡単に言及してみたい。

 ソンムン大学は、その名前が示す通り、ムン・ソンミョン師のビジョンに基づいて、1986年に創設された。現在では、4つの大学院、5学部52学科からなる総合大学で、学生数が約7000人、教官数230人を擁している。歴史の浅い中にありながらも本学は、韓国内において、最も国際化され、更には急速に発展している大学の一つとなっている。韓国の他の大学と比較するとソンムン大学は、外国人留学生と外国人教官の比率がきわめて高く、また世界的なネットワークによって、現在米国のブリッジポート大学を含む、世界の20以上の大学と姉妹提携を結んでいる。

2.世界的指導者の養成

 前述のような大学の特徴についての簡単な概略の他に、本学の大学教育における二つの特色を以下に、紹介したい。

 まず、本学には、「愛天、愛国、愛人」という建学の理念を実現するためのユニークな教育プログラムがある。一流の教育について言及すれば、本学では、将来の世界的指導者の育成に力を注いでいるということである。その「世界的指導者」とは、有能な専門家や技術専門家としてばかりではなく、道徳的にも公正な市民として、よりよい社会と世界平和の建設に貢献する人物である。

 その意味から本学では、従来からある人文科学、社会科学、工学などの分野に加えて、国連研究、ラテンアメリカ研究、創造システム工学、情報工学、国際コミュニケーション論などの、ユニークで頼もしい教育プログラムを持っており、私自身これを誇りに思っている。

一流の教育環境を持つ「世界的なモデル大学」としていくために、今年、野心的な発展計画をスタートさせた。今後10年以内に、本学は、超近代的な知的キャンパスを有する主要な国際大学になっていくと考えている。そのころには、20000人の学生と600人の学部教官を擁すると予想されるが、学生・教官ともその4分の1は、世界中から集まった外国人によって構成されるであろう。また、ノーベル賞受賞者を含む世界的な学者をも有するであろう。

 この目的は、モデルキャンパス、世界の文化村、国境・民族・宗教の壁を超えた文化的多様性を持つ先進的な世界レベルの大学をつくることである。

 また、グローバル化に向けた努力の一環として、本学はアジア大学連合(AUF)の創設を提言した。これは、昨年11月に、台湾において開催された第25回世界平和に関する国際会議(ICWP)において、採択されたアジアの大学間ネットワークである。その会議の席上、AUFの幹事校を務める本学とあわせ、光栄にもAUFの初代会長に私が選ばれたのであった。

 米国に本拠を置く世界大学連合(WUF)と連携を図りながら、AUFはアジアの大学間協力を通し、相互理解と世界平和に向けて、共同の努力を推し進めるための多彩な活動を展開しようとしている。

3.道徳と倫理に関する教育と研究

 に、本学が、道徳と家庭倫理の教育において、先駆的な機関であることを誇りに思っている。今年、本学では「純潔学部」を創設した。これは、道徳と倫理に関する教育と研究を総合的に行なう学部である。

 この新しいプログラムは、ムン師のビジョンと理想から生まれてきたものである。師は、現代世界において、道徳と倫理的な価値の重要性を強調している。もちろん、この新しい学部は、韓国のみならず、世界中においても最初でたった一つの学部であることは間違いない。

 この春、純潔学部が新入生にその門戸を開いた時、若い有能な学生が受験者が殺到して、韓国内の一般社会及びマスコミの強い関心を引くことになった。現在では、このプログラムには崇高な動機を持った20人の女学生を慎重に選抜しているが、今後の男子学生をも入れていく計画である。

 それでは、なぜ本学は、新しい理念でもって公認単位プログラムとして、このような純潔学部を始めたのか。とりわけ、専門的知識のみならず堅実な道徳的・倫理的価値を持った若い有能な人たちを訓練することは、道徳的退廃の時代にあって、家庭にとって、社会の建設にとって、世界平和にとって、きわめて重要なことであるためである。それ故、高等教育は、この分野において将来の指導者を育成することにもっと関心を持つべきである。

 更に、純潔の思想と純潔運動は、科学研究の一部門となるべきであるし、そうなれるはずである。それ故、本学では、純潔研究の分野における理論、方法論、カリキュラムなどを発展させ、学術的理論の発展と高等教育に寄与したいと考えている。

同時に、本学は次に掲げる点において、独特な位置にあると確信している。それは、一つには、純潔という新しい分野を学際的研究として、総合的に研究し、体系化することができること、もう一つは、家庭においては理想的な配偶者となり、自分の専門分野や社会においては指導的役割を果たすことのできる若きエリートを教育することができるという点である。

 道徳・倫理教育に関心のある大学にとって、このプログラムは一つのモデルになりうると思う。このプログラムに関心のある人には、本学の教授陣や私が、積極的に詳しい内容(情報)を提供したいと考えている。

4.高等教育における「家庭」の位置

 本学の教育理想やプログラムについて紹介してきたが、ここで高等教育の役割及び高等教育と家庭との関係について簡単に触れてみたい。家庭と学校とは、教育という点では、互いに相互依存的であり、もちろんパートナーでもある。それゆえ、親と教師とは、共に「教育者」であるといえる。

 しかしながら、社会は教師や教授に対しては、厳しい訓練や試験をするように願いながらも、若者に対しては、教育や準備が不十分と知りつつも、結婚することや家庭をもつことをどうして許すのか、私はときどき疑問に思うことがある。これらのことは、離婚と家庭崩壊の憂慮すべきほどの増加と、社会と教育機関に多大なストレスを加えていることを物語っている。

 それゆえ、家庭の価値教育においての変革がなければ、教育機関が模範的市民を教育することにおいて、十分な能力を発揮することは不可能であろうと思う。同様の意味から、高等教育においても、道徳的価値や教育にもっと力点を置く方向に向けた改革がなければ、社会が家庭問題に取り組むことは困難であろう。

 大学の学長として、若者の精神やこころの教育における大学の伝統的役割を活用することに、私は強い関心を持っている。いかなる社会であれ、その社会や国が発展し成功するためには、高等教育が鍵を握っている。アジア地域においては、現在いまだにここ数年来の金融・経済混乱の渦中にあるものの、これらの地域の経済繁栄にもっとも寄与したものは、将に高等教育の役割であったことは、よく知られた事実である。

 しかし、経済発展の過程において、社会的・道徳的価値が退廃する一方で、人々がより物質指向となり、自己中心となっていることもまた、事実である。アジアの社会的、文化的、地理的なユニークな伝統に基づくアジアの価値は、そのようにして衰退してきたのであった。

 今日の嘆かわしい風潮を変えていくために、「社会の良心」、かつ「知的パワー」としての高等教育機関は、道徳的に正しく、責任のある世界市民を育成することにおいて、もっと強力で積極的な役割を果たす必要がある。健全な道徳的価値を備えた大学卒業生でなければ、健全な家庭を築くことはできず、その役割は、社会全体に対して極めて重要な影響力を持っているのである。

 ソンムン大学は、純潔を尊ぶ真の家庭を目指した家庭的価値を復興するために、道徳・倫理教育の再興に向けたモデル大学となりたいと考えている。

(この論文は、1999年4月15〜18日、マレーシアで開催された「純潔と真の家庭」国際会議で発表された講演を整理したものである)