インターネットに基づくサイバー大学構想

韓国・鮮文大学教授 南 仁鉉

 

1. サイバー大学の必要性

 インターネットやオンライン・サービスへの関心が急速に高まるにつれて、大学における高等教育の環境も、変化を余儀なくされている。生涯学習制度を含めた高等教育の普及に伴い、教育サービスの効率性が重要視され、教育の自由化を通して競争力をつけることが求められてきている。

 さらに実業教育との連携システムが進むことにより、「象牙の塔」は着実に崩壊しつつあり、大学における情報収集が重要なマンモス大学、そして国内と海外の大学間の協力なども考えられるべきときにきている。

 それ故、教育環境の急速な変化に適切に連動するためには、インターネット、電子メール、CD-ROM、ビデオ・ネットワーク(ビデオ会議)、テレビ、ケーブルテレビなどの様々な情報技術を駆使したサイバー大学の運営が必要となっている。情報・通信技術、特にインターネットの利用によって、社会・経済・教育などの分野に多くの革命的な変化がもたらされるであろうと考えられる。その多くの変化の中で、専門家たちは、「遠隔学習、あるいはサイバー大学の発展とその定着は、もっとも有力な変化だ」と予想している。

 米国では、サイバー大学が確立されており、既に13州で運営されている。(今日までに開設されたサイバー大学は約500あるが)その他のいくつかの大学でも、公共団体や民間の援助を受けて、部分的にサイバー大学を運営できるようになっており、将来に向けて徐々に拡大する計画を有している。

 それはまさに米国が先端的な情報技術を駆使して、(世界の)高等教育を向上させようとしていると見ることができるだけではなく、世界中の教育文化を米国支配の下に置こうという努力目標としてもみることができる。例えば、米国の多くの大学は、中国やインドネシアに授業の講義を情報を通じて輸出している。

 米国で近年行われているサイバー大学から影響を受けた韓国の大学では、さまざまなタイプのサイバー大学を準備すべく計画している。これに関連して言えば、国立忠南大学では、インターネットを基礎としたサイバー大学を(これは既に、1997年7月にスタートしている)、他の100のサイバー大学との間で運営している。また河南大学の場合、遠隔教育の授業が運営のための最終段階を迎えている。即ち、これは韓国政府が実験校を早急に立てようとするスピード・プロジェクトに関連したものである。更に、韓国教育部は五大学を選定し、その一つに実験のためのソウル・サイバー・デザイン大学がある。それは実行段階に入っている。

 韓国における100以上の大学は、サイバー大学を運営する準備を早めてきており、遠隔教育のこの形式は、大学の壁を超えて、ビジネス分野、あるいは金融団体のさまざまな教育プログラムにまで普及・拡大する傾向にある。

 ここで、この資料がこれからサイバー大学を準備しようとしている他の大学に幾分でも役立つと思うので、忠南大学で確立されたサイバー大学と開放教育制度を実現するための一般的なコンセプトを紹介しようと思う。

 サイバー大学制度は、次のようなコンピュータ技術により提供された部門の集合体とみることができる。すなわち、学生の管理、聴きたい時にいつでも聴くことのできる講義(授業)、同時中継の衛星授業、マルチ・メディア内容の制作のためのメディア制作ラボ、電子図書館、学生と教授との間の情報交換を可能にするグループウェア(注1)などである。サイバー大学と開放教育の側面においては、一般的なコンセプトを整えることは、即ちサイバー大学の確立と開放教育のサービスとして表現されるが、それを次の節で紹介する。

2. サイバー大学のしくみ

 サイバー大学運営の各部門の機構は、次のいくつかの部分から構成されている。即ち、遠隔学習システム、グループウェア・システム、遠隔講義実施のための運営機構部門における学生への情報サービスシステム、学生管理システム、ビジネス・マネージメント・システム、電子図書館制度、サイバー大学運営に向けた各部門の教育内容を構成する部門などである。それらは遠隔講義や通信教育を可能にすることをサポートするばかりでなく、大学間における単位の交換をも可能にするものである。

サイバー大学と開放教育制度は、ハードウェア、ソフトウェアの技術を調和させて確立されたが、ネットワークは、インターネット上の講義、あるいは聴きたい時に聴ける講義により形成され、更にはインターネットや内部LAN(注2)のおかげで、ネットワーク上(電脳空間)の遠隔講義や通信教育が実現するのである。

 各部門の一般的機能を分類すれば、次のようになる。

a)遠隔学習システム
 内容の構成と遠隔学習は、サイバー大学運営におけるコアを形成する要素となっている。それはまた、インターネットによる遠隔講義に向けた講師の講義内容を知らせるプロセスでもある。ここで、講義内容は、教科課程計画に従ってマルチメディア制作ラボにより作られ、更にインターネット講義に関連した研究論文や参考図書が紹介される。もし必要であれば、講義内容はいつでも変更したり、削除したりすることが可能である。

 INTRA21は、さまざまな講義内容の決定、制作、提供、運用などをサポートし、ワープロ、パワーポイント(注3)、HTML(ホームページ作成のプログラム言語、注4)編集ソフトなどのマルチメディアの道具により準備された内容は、標準化された資料として知らせるのに役立つ。そしてその取り扱い方が決められている。

 遠隔学習により、サイバー大学の学生は時間と空間の制約が解消され、通信教育が可能になった。学生は、インターネットを利用することで、自分の好きな時、好きな場所で学習ができる。もし必要ならば、LODシステム(注5)を利用してサイバー大学センターにアクセスし、講義内容を聞くことも可能なのである。

b)学生管理システム
 サイバー大学で講義される教科課程の全般的状況は、インターネットにより知ることが出来、インターネットにより学生は自分の教科を選択することができる。サイバー大学に関する紹介や登録もインターネット上でできる。

 サイバー大学へ登録を申請する場合、インターネットを通じてオンライン化された登録は、サイバー大学センターに自分自らですることが望ましい。しかし、登録が許可された後、教科への登録は、授業料を納め終えた人のみが許可されることになる。

 サイバー大学における教科課程は、授業登録を許可された学生のみに紹介され、その登録に必要なさまざまな他の情報も提供される。

 学生管理システムは、従来の学生管理システムを使った管理システムとは違ったものである。これはサイバー大学のために特別に開発された、従来のものとは違った管理システムとなっている。学生の学業成績と学生と教授の個人情報は、サイバー講義にその実体が反映されるために、容易に交換できるようになっている。更には、課程修了後にも、遠隔学習システムから情報を得られるように、学生の学業成績はきちんと管理され、学生管理DBMS(注6)により記録される。

 一度学生管理システムが確立されると、授業登録、教科課程への登録、卒業などがこのシステムを通してなされることになる。

c)内容構成のしくみと電子図書館
 海外における同様の実例と同じように、生きた情報とともにあるマルチメディア内容は、図書館の所蔵の一部として管理される。すなわち学生の創作完成品と講義資料の配布過程が終わると、それらはCDまたはマルチメディアデータとして図書館にバックアップされて保管される。講義で使われた講読資料のテキスト(例えば、教科課程に関連した書籍やさまざまなテーマの論文)は、後においても参照可能となっている。このようにデジタル化した内容の管理は、PDF(注7),TEXT(注8),HTML,XMLコンテキスト(注9)に保存され、更に講義のための資料として利用される。

d)グループウェア・システム
 グループウェア・システムの場合、サイバー大学の運営を効率化させてくれるグループウェアの能力を網羅している。それはカウンセリングを可能にし、サイバー大学における教授と学生間の情報交換をする。掲示板制度、外に開かれた講義の実施、インターネットを利用した手紙とおしゃべりの制度などを通して、さまざまな情報を提供することで、学生と教授との間での親密なグループディスカッションが可能になる。

 これはまた、電子メール、BBS(注10),おしゃべり、個人情報管理、スケジュール管理システムなどを提供する。

3.サイバー大学運営を成功させるための方法

a)インターネット講義の組織
 まず、講義内容は、サイバースペースの講義用としてHTMLに基づいて組み立てられなければならない。次に、学期のごとの講義資料がインターネットを通して容易にアクセスできるようなシステムをもたなければならない。第三に、告知された資料は、遠隔学習あるいは通信教育のために効率的に使えるような講義や望ましい講義形式であるように確立されなければならない。

 更に、教授と学生間において、教科への登録、授業登録、出席記録、学業成績、インターネットによるテストなどが交換され、講義のために必要なその他のことが十分に準備されなければならない。

b)聴きたい時に聴ける講義の組織
 衛星放送の展開により実際にこのような講義が実施された時に、それらのサービスは、地方の学習の場において受けられなければならない。しかし、相互通行の講義とするためには、スタジオ組織が実際の講義のために不可欠である。単純な例として、米国のUTRA大学の場合を見てみよう。スタジオ運営は、5つの州で地方の学習の場が備えられ、開放教育のレベルにおいてそれが実施されているだけではなく、衛星放送による配給が可能となっている。相互通行の講義は、海外の地域拠点に対しても可能である。このように講義内容は、国内的にも、国際的にも交換可能となっていなければならない。

c)テキスト作成ラボの組織
 テキスト作成ラボは、マルチメデァアテキストの作成のために必須の設備となっており、それにより講義が可能となる。更に、インターネットや衛星放送を通じ、既に制作された講義内容や講義をするための道具を効率的に運用することによって、それはサービスを提供する。これに関連して言えば、インターネットにあまり詳しくない教授に対しては、HTMLを使った便利な道具やインターネットへのアクセスを紹介してくれる道具が準備されている。

4.サイバー大学実現に必要な基礎技術

サイバー大学の実現に必要な基礎的技術が、ミドルウェアを基礎としたウェッブCORBA(注11)の短所を補うために、これまで準備されてきた。ミドルウェアは、ウェッブに基礎を置いた環境をこれまで整えてきた。すなわち、それは、ODBMS,IRS(情報検索システム)、マルチサーバーを必要とするマルチメディア講義のための資料を管理するVOD、CGI(注12)プログラムの利用を必要としないマルチユーザーなどを可能にしてきた。

 サイバー大学の経営のためのソフトウェアは、次のようなものから構成されている。教授と学生間における遠隔学習の講義と通信教育のための遠隔学習基準。授業登録のための学生管理基準。サイバー大学の学生の入学手続きと卒業の管理。学生への必要情報の提供の基準。教授と学生との間のマルチメディア情報の交換のための学生の貢献。教科課程のためのテーマ論文や講読資料にむけた参考資料の電子図書館基準。マルチメディア講義のためのLOD。

5. 来るべき21世紀におけるサイバー大学

 ここまで、サイバー大学の運営のための部門別の準備とその運営に向けた一般的な計画について、述べてきた。しかし現時点までにおいて、サイバー大学の運営に関するさまざまな法的、システム的な議論、教授と学生間において等閑視されてきた人間的要素などが、多くの大学によって改善されてきてはいるものの、いまだ解決されたわけではない。

 現在、遠隔講義を実施するに際して、多くの大学が悩んでいる問題の一つは、人間性(情的交流)の欠如の問題である。遠隔講義を通して、教師と学生は知識と情報のみを交換するのみで、情緒的人間性のやり取りに欠けている。もう一つ指摘されていることは、遠隔講義から取り残された人々の授業である。しかし、1997年1年間にわたって調査された遠隔講義のケーススタディーを基にした資料を見たところでは、サイバー大学によって積極的でない学生が、授業において積極的参加者に引き上げられてきている。約90%の授業参加者において実現しているのである。

 私は21世紀における教育は、生涯にわたること、開放教育、そして国籍の壁を超越するという観点から推し進めていくべきだと強く信じている。現在、国力は経済力によって決定付けられているが、21世紀における国力は文化、情報、教育の戦いによって決定付けられると確信している。

 この戦いに備えるために、教育と学校組織による賢明な判断と準備が必要であり、経済構造における再編運動のように、教育システムは自由に再編を経験していかなければならない。これに関して言えば、サイバー大学の準備は、教育文化の国家管理を継続することを誇ることができ、更には21世紀の大学の世界化のためなのである。

(1998年12月2日、第25回ICWPにて発表、台北・台湾)

注1) グループウェア(groupware)
 ユーザー間のコミュニケーションや情報の共有を実現することで、グループによる作業を効率化するソフトウェアのこと。LAN上での利用を前提とする。例えば、電子メールでは、パソコン間で指定した相手とメッセージをやり取りする。複数のユーザーに同時に同じメールを送る同報機能や、メールの返信、転送機能などを持つ。WWWの普及に合わせてグループウェア製品のほとんどが、機能の一部又は全部をWebブラウザーから利用できるようになった。代表的なグループウェア製品にロータスのノーツドミノ、マイクロソフトのExchange Serverなどがある。

注2) LAN(Local Area Network)
  構内情報通信網。オフィス内、ビル内など限られた範囲のコンピュータ同士を接続し、データをやり取りできるようにすることで、各種のサービスを実現するネットワークシステムを指す。最新のパソコン用OSは標準でネットワーク機能を持っており、パソコン本体も企業向けの製品では多くが最初からLANインターフェースを内蔵している。LANによって実現できるサービスには、資源共有、グループウェア、データベースの共有、イントラネットなどのタイプがある。

注3) パワーポイント(Power Point)
 マイクロソフトが発売するプレゼンテーションソフト。Office 97のStandard EditionやProfessional Editionにも含まれている。

注4) HTML(Hypertext Markup Language)
 インターネットのWWWで閲覧するドキュメントを記述するのに使われるマークアップ言語。文書中にタグを置き、そこから別のページや他のサーバーの情報を自動的に呼び出すことができる。この場合、文字だけでなく、画像や音声などのデータを呼び起こすことも可能。HTMLはW3C(WWWコンソーシアム)が中心になって標準化が行われている。

注5) LOD=Lecture On Demand

注6) DBMS=Data Base Management System

注7)PDF(Portable Document Format) 

  米アドビシステムズが開発したドキュメント表示用のファイルの形式。ページ記述言語Post Scriptと似た設計思想を持つ。レイアウトやフォントの情報がファイルの中に収められているため、見る側の環境に依存せず、文書を表示できるのが特徴。画像や文字がページ上のどの位置にあって、どのような寸法を持っているかなどの詳細なレイアウト情報が記録してあるので、オリジナル文書のイメージをほとんど壊さずに表示できる。ファイルに圧縮がかかるため、ドキュメントを電子化して受け渡しする際などに適する。

注8) TEXT:文字列や文章のこと。パソコンでは、特にJISなどで定義された文字コードで表現された文字や記号の並びを指す。

注9) XML(Extensible Markup Language)
 レイアウト情報などを持ったマークアップ言語の一つ。インターネットで利用する。SGMLというマークアップ言語の機能を一部継承しながら、SGMLの機能の中で時代遅れなものや実装が困難なもの、インターネット上では意味を持たないものなどが除かれて開発された。インターネットで利用されているHTMLはベンダーがあらかじめ決めたタグしか使えないが、XMLではユーザーが独自のタグを作って機能を拡張できる。またXMLはHTMLと異なり、Webブラウザーで情報を開示、閲覧する他に、データベースから直接情報を引き出すこともできる。

注10) BBS(Bulletin Board System)
 電子掲示板。パソコン通信やWWWでのコミュニケーション機能の一つ。駅の伝言板の電子版と思えばよい。一人から不特定多数への連絡、情報提供などに使われる。電子掲示板を発展させ、発信者名による検索機能や関連するメッセージの表示機能などを強化して、意見交換ができるようにしたものが電子会議。WWWでは意見の交換が出来るか否かにかかわらず、電子掲示板という呼び方が定着している。ただ現在では、一般に草の根活動的なミニパソコン通信局に限ってBBSと呼ぶ傾向が強い。

注11) CORBA(Common Object Request Broker Architecture)
 ネットワーク上の分散環境で、異なるコンピュータで動作しているオブジェクト同士が情報をやり取りできるようにするための仕様。オブジェクト指向関連技術の標準団体であるOMGが策定した。CORBAと同じように分散環境でオブジェクト同士の情報のやり取りを可能にするものに、マイクロソフトが策定したDCOMがある。

注12) CGI(Common Gateway Interface)
 HTML文書とUNIXのプログラムがやり取りをするために考え出された規約。接続中のWebサイトと同じサーバーにあるスクリプトを実行することで、計算を行ったり、Webページの表示を変更することが可能になる。Webブラウザーにテキスト入力ができるボックスなどもCGIを利用している。Webページの来訪者数を累積するカウンターは、CGIの代表的な利用例。

(以上、『日経パソコン新語辞典』99年度版、日経BP社から引用)